当初の研究目的はSco X-1からのX線パルスを探査し、検出された場合、定常重力波初検出へ向け観測的・実験的研究を推進することであった。2021年度前半でX線パルス探査は完了したが、結果的にX線パルスは検出されず、パルス振幅上限値を算出するにとどまった。2021年度以降は研究テーマをシフトし、主にAGNの観測的研究を行ってきた。
近年の観測・理論的研究から、ほとんどのAGNは複数の吸収体を持つことが示唆されている。例えば、放射電磁流体シミュレーションでは、超高速の円盤風 (UFO)が中心から離れたところで不安定になり、ガス塊に変化することが示された。しかし、これまでのX線スペクトル解析では、スペクトル成分が複雑に絡み合っており、ガス塊の観測的パラメータに制限をつけることができなかった。 私はこのパラメータ縮退を解くため、スペクトル比フィッティングという新たな手法を開発した。この手法をあるAGNに適用することで、(1)塊状吸収体のアウトフロー速度がUFOに匹敵するほど超高速であること、(2)AGNが明るい時ほど高速であることを発見した (Midooka+23)。
さらに、Midooka+23で開発した手法を用いて13個のAGNを系統解析し、特に活動性の激しい3天体が上記2つの特徴を同様に示すことを発見した。つまり、特に活動的なAGN中心部においては、輻射圧駆動円盤風が不安定性により部分吸収を起こすガス塊に変化するという理論予測を初めて観測的に支持することに成功した。このような超高速で噴き出す塊状吸収体を考慮することで、これまでうまく説明できなかった1 keV付近の吸収端構造も自然に説明することが可能となった。また、塊状吸収体が超高速である理由として、連続スペクトルのみならずスペクトル線の吸収により効率よく加速しているという描像を提案した。最終的にこれらの成果を博士論文にまとめた。
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