研究課題/領域番号 |
20J20811
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
明橋 弘樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ダンパー逆置換 / active earthquake / 擬似ダブルインパルス / モード更新型エネルギーバランスアプローチ / 下限伝達関数 / 多モード適応ダンパー設計 / マルチレベル地震動 / 制振 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究成果は、以下の3つにまとめられる。 [1]大振幅レベル地震動を受ける弾塑性平面骨組への粘性ダンパー最適設計法を構築した。付加減衰のない平面骨組を1次モード等価せん断質点系に置換し、せん断質点系に対してダンパー最適化(層方向ダンパー分布の探索)を行う。その後、1次減衰定数の略算値が最大化されるようにダンパー逆置換(スパン方向分布の決定)を行い、近傍探索ベースの手法による設計の微修正を行って操作を終了。弾塑性平面骨組に対する時刻歴応答解析の必要回数は限定的であり、解析時間の大幅縮小が可能となる。また幅広いレベルの地震動に対して有効性の高いロバストなダンパー設計が得られる。 [2]1次モードへの入力エネルギーに基づく極限的ダブルインパルス(DI)の入力速度調整法を構築した。DIを粘性ダンパー設計過程でのactive earthquake(設定した入力地震動群の中で応答を最大化)として機能させて効率的に最適設計を得ている。本手法はパルス性地震動のみならずランダム位相地震動に対しても適用可能である。またDIは弾塑性系の共振応答を扱うことが容易であり、局所最適解への誘導を回避して信頼性の高い設計が得られる。 [3]従来の地動加速度としてのDIを等価水平衝撃外力に拡張した、擬似DIを提案した。インパルス入力の有する多モード励起特性を制御可能とし、弾塑性多自由度系の加速度・変形応答を高精度かつ繰り返しなしで評価可能とした。さらにUpdated mode-controlled energy-based approachという変位制御解析法を開発し、極限的擬似DIに対する最大層間変形分布の近似閉形表現を導出した。 これらのほか、マルチレベル地震動を受ける弾塑性多層建物に対する粘性・履歴ダンパー最適設計の連続的生成、下限伝達関数に基づく多モード適応粘性ダンパー設計、などの研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、弾塑性多層建物モデルに対する弾塑性極限外乱法とダンパー最適設計法に関する研究を展開し、多数の成果を挙げた。具体的には、査読付き論文8編(国際専門誌7編及び日本建築学会構造系論文集1編)として発表し、また国際学会及び国内学会にて発表も行った。これらの他、査読論文及び国際会議論文として複数の研究成果を現在投稿中であり、当初の計画以上に研究が進展している。 主な研究成果としては、[1] 大振幅レベル地震動を受ける弾塑性平面骨組への粘性ダンパー最適設計法の構築、[2] 1次モードへの入力エネルギーに基づく極限的ダブルインパルス(DI)の入力速度調整法の構築、及び[3] 断層近傍地震動に対する多自由度系の弾塑性極限応答シミュレーションのための擬似DIの提案が挙げられる。[1]に関して、1次モードが等価なせん断質点系とダンパー逆置換法を組み合わせることにより、従来の方法と比べて解析時間の大幅な縮小を可能とする方法を提案した。大振幅レベル地震動及び骨組の弾塑性応答を考慮しているため、幅広いレベルの地震動に対して有効性の高いロバストなダンパー設計が実現可能な方法である。[2]に関して、DIは以下のような特徴を有する: 継続時間が短い, 弾塑性モデルの共振応答を扱うことが容易, 幅広い振動数域に大きな成分を有する。これらの特徴は設計用地震動としてDIを用いることの合理性を保証するものである。入力速度が適切に調整されたDIをダンパー最適化に用いることで、信頼性の高い設計が得られる。[3]に関して、擬似DIとは従来の地動加速度としてのDIを等価な水平衝撃外力に拡張したものである。擬似DIを用いることで、断層近傍地震動に対する多自由度系の弾塑性極限応答(変形・床加速度)を高精度かつ繰り返しなしで評価可能とした。さらに独自の変位制御解析法を開発し、最大層間変形分布の近似閉形表現を導出した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度では、弾塑性多層建物モデルに対する弾塑性極限外乱法とダンパー最適設計法に関する研究が当初の計画以上に進展した。これらのほか、長周期長時間地震動を模擬した擬似マルチインパルス(MI)及び擬似MIを受ける弾塑性高層建物のレジリエンス評価に関する研究も実施している。2022年度ではこれらの研究を深化させ、査読論文や会議論文として発表する。 擬似MIは従来の地動加速度としてのMIを水平衝撃外力に拡張したものである。擬似MIを用いることで、長周期長時間地震動に対する多自由度系の弾塑性極限応答(変形・床加速度)の高精度かつ繰り返しなしでの評価が可能となる。等価1次モードに共振する場合のみならず、高次モードに共振する場合も扱うことが可能となる。 また日本では、長周期長時間地震動により都市部の超高層建物やライフラインなどに広域的な被害が生じることが危惧されている。擬似MIを用いて、弾塑性超高層建物の共振時のレジリエンス評価を行う。2020年度に構築したレジリエンス評価モデルを発展させ、構造体・非構造体・設備損傷及びライフライン被害を考慮可能とする。ダンパー付加、設備システムの冗長性及び復旧人員数の不確実性がレジリエンス性能に及ぼす影響を明らかにする。 また2020-2022年度の研究から得られた知見を整理し、提案したダンパー設計法及び弾塑性極限外乱法の全容を明らかにする。これらを博士論文にとりまとめるほか、査読論文及び国際会議での発表を行う。
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