研究実績の概要 |
本研究の目的は、集団を越えた協力関係および信頼関係をいかにして構築できるのかを明らかにすることにある。本年度は、まず集団を越えた協力の阻害要因についての検討を行った。本研究では「集団を越えて協力することが、集団内の評判を低下させてる」という要因も集団を越えた協力の阻害要因として存在する可能性に着目した。数理モデルを用いたMatsuo et al.(2014) は、集団を越えて協力する普遍主義戦略に悪い評判をつける内集団ひいき戦略が多数を占める社会では、普遍主義戦略が淘汰されることを示した。但し、Matsuo et al. (2014) はモデル研究であり、そのような評価規則を実際に人々が採用しているかは明らかでない。その点を検討するため、実験A, Bを行った。 実験Aでは、集団内にのみ協力する内集団ひいき戦略と集団を越えて協力する普遍主義戦略の評判を場面想定法質問紙で比較した。各戦略が分配する資源が有限か否かを条件操作した。その結果、条件にかかわらず、普遍主義戦略は内集団ひいき戦略よりも良い印象を抱かれ、他者から資源を提供してもらいやすい可能性が示された。 実験Bでは、内集団ひいき戦略、普遍主義戦略の評判を実験室実験で検討した。ゲーム三験を行ったため、実験Aと違い、各ターゲットの行動によって参加者の利益が変わる設定であった。集団間に競争があるか否かを条件操作した。その結果、競争あり条件では普遍主義戦略の方が評判は低くなったものの、競争なし条件では普遍主義者が良く評価されやすいことが示された。 本年度の研究から、「集団を越えた協力が集団内の評判を低下させる」という阻害要因は、限定された状況でのみ生起することが明らかになった。ただし、評価する側が実際に同じグループのメンバーであり自己利益にかかわるのか、第三者に近い立場なのかによって、普遍主義戦略がよい評判を得られる程度は異なる可能性が示された。
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