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2020 年度 実績報告書

機械学習手法を応用した密度汎関数法の精度向上

研究課題

研究課題/領域番号 20J20845
研究機関東京大学

研究代表者

永井 瞭  東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2020-04-24 – 2023-03-31
キーワード密度汎関数理論 / 機械学習 / 第一原理計算 / 物性物理学 / ニューラルネットワーク
研究実績の概要

さまざまな物質の性質を理論的に解明・予測するために、物質中の量子力学的な電子状態をシミュレーションする技術は非常に重要である。電子状態を理論計算するための標準的な手法として、密度汎関数法がある。密度汎関数法において、解析的に書き下せない交換相関汎関数(単に汎関数とよぶ)項が存在するが、この項はいままで様々な関数形を試行錯誤しながら発見的に近似されてきた。本研究では、この汎関数を機械学習手法を用いて物質データから系統的に構築する手法についての研究を行っている。
採用以前では、小分子の電子状態データをもとに、一般の中規模分子にまで汎用性のある汎関数が構築可能であることを示した。先年度の研究では、この手法を電子状態が時間依存する系にも発展させ、モデル系において時間依存密度汎関数の構築を行った。これまで解析的には過去の電子状態の効果(履歴効果)を含む汎関数を作るのは困難だったが、機械学習手法を適切に応用すれば系統的な手順で履歴効果を導入することが可能であることを示した。また、これらの研究成果を論文として発表し、さらに機械学習を密度汎関数法へ適用する研究をまとめた解説記事への寄稿も行った。
今後は、汎関数の汎用性を向上するため、大きなデータセットに対して効率的に訓練する手法について研究を行う。本手法は訓練のコストが非常に大きいため、訓練データをやみくもに増やすと訓練エポック数が稼げず精度が向上しない。そこで、様々な物質への汎用性を向上するためにどのような物質を訓練データに含ませると効率が良いかについて明らかにする。また、機械学習モデルに工夫を施すことで、様々な物質を精度良く記述できる汎関数形を実現する試みも行っている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当初の目標は、より多くの物質を訓練データに含ませ機械学習を行い、訓練データの量や含まれる物質の種類の豊富さにより、訓練データに含まれていない物質に対して汎関数を適用した際の汎用性がどのように変化するか検証することであった。実際に、先年度は効率の良い訓練データの探索を行った。さらに、訓練の効率向上に必要な追加要素として、汎関数形の模索も行った。しかし、どちらも最適な訓練手法を確立するのには未だ十分な結論が出ておらず、さらなる研究が必要である。
効率の良い訓練データの探索としては、汎用性に関わる訓練分子を特定する手法を考案したが、実際にそのデータを含ませて訓練しても必ずしも汎用性が上がるわけではなく、より手法の改善が必要であることが判明した。
また、最適な汎関数形の模索としては、非局所型の汎関数の構造の模索と、機械学習モデルへの物理的条件適用に関する研究を行ったが、どちらもいままでのベンチマークセット(小さい分子系)よりも大きな系(中規模以上の分子や固体など)を含むデータセットで有効であると考えられる。実証のためにデータセットの拡張と、大きな系での機械学習汎関数を使用可能とするための技術的な実装が必要である。

今後の研究の推進方策

先年度の研究では、機械学習で構築された汎関数に物理的条件を導入する方法について考案した。物理的条件とは、汎関数がある極限(一様電子ガス極限)などで特定の漸近系に近付くなど、物理的に導かれる厳密な条件であり、従来開発されてきた汎関数は複数の物理的条件を解析的な関数で接続することで作られてきた。一方、機械学習汎関数は多量のパラメータからなり関数形の制御が難しいため、物理的条件を課すのは難しいが、汎関数の汎用性や計算の安定性の向上に必要な要素であると考えられる。そこで、申請者は機械学習汎関数に物理的条件を満たさせる方法を開発した。機械学習モデルに数学的工夫を施すことで、機械学習の柔軟性を保ちながらも任意の漸近形を満たさせることを可能とする。
今後の研究方針として、この手法の有用性の実証を重点的に行う予定である。とくに、物理的条件が重要であると考えられる固体、とくに金属系において手法の実証が重要であると考えている。物理的条件を導入していない機械学習汎関数を金属系に適用しようとすると、極端に精度と計算安定性が不安定になるという問題が確認されており、その改善として物理的条件を課した機械学習モデルの有用性を検証できれば有意義な知見を得られると考えられる。
そこで、今年度は物理的条件をもつ汎関数を固体用ソフトウェアで使用できるように実装し、その精度を検証する。そして、物理的条件が汎関数にもたらす効果について明らかにすることを目標とする。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Machine learning exchange-correlation potential in time-dependent density-functional theory2020

    • 著者名/発表者名
      Suzuki Yasumitsu、Nagai Ryo、Haruyama Jun
    • 雑誌名

      Physical Review A

      巻: 101 ページ: -

    • DOI

      10.1103/PhysRevA.101.050501

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Completing density functional theory by machine learning hidden messages from molecules2020

    • 著者名/発表者名
      Nagai Ryo、Akashi Ryosuke、Sugino Osamu
    • 雑誌名

      npj Computational Materials

      巻: 6 ページ: -

    • DOI

      10.1038/s41524-020-0310-0

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 機械学習手法を用いた交換相関汎関数の構築とその展望2020

    • 著者名/発表者名
      永井瞭
    • 学会等名
      オンラインCMTセミナー
    • 招待講演
  • [学会発表] 機械学習手法を用いた密度汎関数の構築2020

    • 著者名/発表者名
      永井瞭
    • 学会等名
      ISSP機械学習セミナー
    • 招待講演
  • [備考] AIに電子の物理を学習させる方法を開発

    • URL

      https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=10656

  • [備考] 研究室の扉「機械学習で電子の相互作用を捉える」

    • URL

      https://www.youtube.com/watch?v=aDtHN0RQpTQ

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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