研究課題/領域番号 |
20J20851
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
安部 佳亮 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | シングルセル解析 / リンパ腫 / リンパ節 / 間質細胞 |
研究実績の概要 |
濾胞性リンパ腫患者10症例のサンプルから抽出した間質細胞のシングルセルデータを詳細に解析した。パイプラインSeuratを用いて統合・クラスタリングしたシングルセルデータをパイプラインMonocle3に移行してpseudotime解析を行い、各細胞クラスターの分化関係を推定することに成功した。血管内皮においては、動脈や静脈といった径の大きい血管内皮から毛細血管内皮、また、最終的に血管先端細胞に至る分化関係を示した。間質細胞においては、リンパ節の外壁や髄質に分布する線維芽細胞がリンパ節の濾胞周囲に分布する線維芽細胞、そして最終的に濾胞樹状細胞に分化することを推定した。また、パイプラインMetascapeを用いて、各細胞クラスターで高発現している遺伝子リストから各クラスターの機能の推定を行った。また、正常リンパ節の間質細胞のシングルセル解析データと比較解析を行うことで同定された、濾胞性リンパ腫の間質細胞において発現上昇している遺伝子に対しても同様に機能の推定を行い、濾胞性リンパ腫の間質細胞の機能の変化がサブクラスターごとに様々に変化していることが明らかとなった。 さらにこれらのアトラスを用いた解析がリンパ腫研究に広く有用であるかを調査するため、濾胞性リンパ腫以外のリンパ腫(T細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫から形質転換したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫)においてもシングルセル解析を行い(合計8サンプル)、アトラスで同定されていた間質サブタイプがそれらのリンパ腫においても認められることを確認した。これらの解析はいずれも世界的に行われていない解析であり、解析結果は新規性を有している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シングルセル解析の実験系と解析系を研究室内で樹立し、さらに発展させた。また、ヒトの希少な臨床サンプルを集積する研究システムを構築し、多数のリンパ節、リンパ腫のサンプルの回収を順調に継続した。 ヒトの正常リンパ節9サンプル、リンパ腫18サンプルを集積しており、データは疾患ごとに分けてSeurat、Monocle3、Metascapeといった解析パイプラインを使用することでクラスタリング解析、pseudotime解析、遺伝子発現差解析などを行うことに成功した。解析結果は、既知の知見を検証することに成功しつつ、これまで未解析であった領域に対して知見を見いだすことができており、新規性を有するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
濾胞性リンパ腫患者10症例のサンプルから抽出した間質細胞のシングルセルデータと正常リンパ節の間質細胞データを比較解析し、CellPhoneDBパイプラインを用いて腫瘍細胞と間質細胞の相互作用を網羅的に解析したデータの中から、特定の間質細胞と悪性B細胞の間で亢進している細胞間相互作用としてCD70-CD27 interactionが同定された。この知見を検証するために、濾胞性リンパ腫の生細胞保存検体を蓄積し、Recombinant CD70-Fcキメラタンパクを用いて腫瘍性B細胞とCD70分子の接着アッセイを行う。また、濾胞性リンパ腫のOCT包埋サンプルと抗CD27抗体を用いて悪性B細胞の間質への接着の阻害実験を行う。
また、血液細胞成分に発現がみられず、かつ正常リンパ節の間質細胞のシングルセル解析データとの比較解析を行うことで同定された、濾胞性リンパ腫の間質細胞において発現上昇している遺伝子を同定し、その中から、公開されている濾胞性リンパ腫の網羅的な遺伝子発現データを利用して患者予後に影響を与える間質由来のバイオマーカーを同定する。nCounterシステムによる濾胞性リンパ腫の遺伝子発現データを多数例にて集積し、バイオマーカーの有用性の検討や臨床的特徴との関連を解析する。
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