研究課題/領域番号 |
20J20880
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
瀧野 純矢 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 天然物化学 / 有機化学 / 生合成 / ポリケタイド / 麹菌異種発現 / ゲノム編集 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集を用いた麹菌ホットスポットへの遺伝子導入法の拡張として、塩基配列が8 kbと長いポリケタイド合成酵素 (PKS)を含む4遺伝子 (合計14 kb)の麹菌への一挙導入を行い、phialotide、phomenoic acid、ACR-toxinにおけるポリケタイド骨格の異種生産を100%の効率で成功した。この結果より、従来は形質転換体のスクリーニングに手間のかかっていたPKSの機能解析や、複数遺伝子の一挙導入を確実に行えることを確認した。今後は、異種発現による機能未知遺伝子の機能解析例が増えると期待される。実際に本研究で異種発現に成功したphialotide生合成遺伝子は初の機能解析例である。 次に、phialotide生合成遺伝子の詳細な機能解析を行った。麹菌に導入する遺伝子の組み合わせを変えた5種の形質転換体を調製し代謝産物を分析した結果、PKSを含む3遺伝子によって炭素骨格が生合成されること、非リボソーマルペプチド合成酵素がポリケタイド骨格をPKSから切り出しているという珍しい反応が関与することが明らかになった。現在、phialotideとphomenoic acidの絶対立体配置をオゾン分解と合成標品とのスペクトル比較によって行っている。これらの化合物は、従来の研究対象とは異なりポリケタイド骨格に不斉中心が多く残っているため、この研究によって糸状菌由来ポリケタイド合成酵素の立体化学について統一的な説明が可能になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、ゲノム編集を用いた麹菌ホットスポットへの遺伝子導入法の拡張として、ポリケタイド合成酵素 (PKS)を含む遺伝子クラスターをモデルとした実験を計画した。ホットスポットとは、所属研究室で見出した麹菌内の導入遺伝子が確実に転写される領域である。ゲノム編集によって本領域に狙って遺伝子を導入することで形質転換体の取得が難しい塩基配列の長い遺伝子の解析が容易になる。これまでの研究によって1-3 kb程度の遺伝子は100%成功したので、本研究では約8 kbとサイズの大きなPKSを標的とした。実際に、ポリケタイド系天然物phialotide、phomenoic acid (PMA)などのPKSおよび周辺遺伝子 (最高で4遺伝子)をホットスポットへ導入した。その結果、いずれの株においても100%の成功率で形質転換体を取得することに成功し、ホットスポット異種発現系の拡張に成功したと言える。さらに、phialotideについては導入遺伝子の組み合わせを変えた5種の形質転換体を新たに作製し生合成経路の同定も達成した。 現在は、構築したPKS異種発現株を基盤とし、糸状菌由来PKSの鎖伸長過程における立体化学の統一的理解を目的とした研究を行っている。PKSは縮合・還元等を担う機能単位であるドメインにより構成されるモジュール式酵素であり、鎖伸長過程において酸化度・立体化学・鎖長が厳密に制御される。単一のモジュールしか持たない繰り返し型PKSでは単一の立体化学を与えると考えられるが、従来の研究対象では骨格に不斉中心がほとんど残らないために立体化学への知見はあまり得られていなかった。本研究で標的としたPMAを代表とする天然物は不斉中心が多く残るため、立体化学の統一的理解には格好の対象である。現在、異株発現株より取得した炭素鎖の絶対立体配置をオゾン分解と標品のスペクトル比較により決定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、糸状菌由来ポリケタイド合成酵素 (PKS)の立体化学についての統一的理解のため、1) phomenoic acidを代表とする天然物の絶対立体配置の決定と比較、2) ポリオール構造を有するマクロラクタムやマクロラクトンの絶対立体配置との比較、3) PKSのドメイン交換実験を行う。 1)では初めに、本年度の実験の続きとしてphialotideとphomenoic acidの絶対立体配置の決定を行う。既にオゾン分解に用いるポリケタイド鎖の取得および標品の合成経路は確立しているため、スペクトルの比較による立体配置の決定を行う。次いで、異種発現に成功しているACR-toxinなど既に絶対立体配置が報告されている構造類縁体と比較することで近縁化合物における絶対立体配置のルールを提唱する。 2)では、先の標的天然物同様にポリオール構造を有するThermolideなどのマクロラクタムやマクロラクトンについて絶対立体配置の決定および比較を行うことで、提唱したルールが糸状菌由来PKSへ広く適用できることを確認する。 3)では、構築した異種発現株同士でPKSを構成するドメインや遺伝子を交換することで鎖長や酸化度が異なる新規化合物の創出を行う。本実験によってドメイン間の相互作用や酸化を制御する仕組みなどへの知見が得られると期待される。また、遺伝子の交換はアミノ酸配列の相同性が高いほど成功しやすいという知見が得られているので、この知見を参考にして交換するドメインを選択する。
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