研究実績の概要 |
本年度は,Hydnum属の子実体・菌根の野外調査と菌株確立を重点的に行い,材料を収集した.子実体はDNAバーコーディング領域(nrDNA ITS 領域)の解析による暫定的な種同定のもと,各系統の形態情報・生態情報を評価した.日本産Hydnum属標本に由来する137シーケンスを解析した結果,国内のHydnum属は最低でも19系統に分かれ,うち3系統は日本原産種(H. cremeoalbum, H. minus, H. repando-orientale),3系統は新産種(H. boreorepandum, H. mulsicolor, H. umbilicatum)と同定された.一方で他の13系統は形態学的・系統学的観点から新種だと考えられ,国内のHydnum属菌は既知の2倍以上の種多様性を含むことが明らかとなった.さらに子実体88標本はtef1領域でも解析を行った結果,ITS領域で見出した3系統において,形態的・生態的特徴のバリエーションを反映するような種内分類群が見出された.したがってHydnum属は,これまでその分類に利用されてきたITS領域の解析では区別できない隠蔽種を含む可能性がある. さらにHydnum属菌のライフサイクルは他の菌根菌と同様に未解明な点が多いため,菌株とアカマツ実生を用いた接種試験を行った.その結果,Hydnum属菌の一核性菌糸と二核性菌糸が同様に菌根形成能力をもつことを初めて明らかにした. 子実体80個体の直下菌根についても系統解析と形態観察を行った結果,いずれの系統も根外菌糸体の特徴は共通した.一方,菌糸束および菌鞘表面の特徴には種間相違が確認されるとともに,亜属や節内で共通する傾向にあった.これらの特徴は土壌中での栄養吸収に関与しているため,菌根形態の進化がHydnum属全体の生態的ニッチを増大させ種の多様化をもたらした可能性がある.
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