研究課題/領域番号 |
20J20884
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
菅原 遼 鳥取大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | Hydnum属 / Sistotrema属 / 外生菌根菌 / 分類 / 種多様性 / 進化 / 菌株 / 交配 |
研究実績の概要 |
国内産Hydnum属菌の種区分を目的に,前年度に引き続き,国内産標本の分子系統解析(nrDNA ITS,tef1,rpb1,rpb2領域)を行った.その結果,国内産Hydnum属菌は20種に分類された.この解析では,H. repando-orientaleは温帯林集団と亜寒帯林集団の姉妹群に分けられ,単胞子分離株を使った交配試験でも両集団間には交配不和合性が成立しつつあることが確認された.ゆえに,亜寒帯林集団は生態的要因によって分かれた新種と結論付けた. 広義Sistotrema属菌のうち菌根性の菌群はHydnum属の姉妹群であり,Hydnum属で示唆された種分化要因の妥当性を評価する上で適している.しかし菌根性Sistotrema属菌は多くの未記載種を含むため,まず本菌群の分類学的再検討を行った.広義Sistotrema属菌102標本を用いて,形態観察と4遺伝子領域(ITS,LSU,tef1,rpb2)を対象とした分子系統解析を行った結果,菌根性Sistotrema属菌は5属27種に細分される可能性が示唆された.このうち2つの属レベルのクレードには10-14の種レベルのクレードが含まれるため,Hydnum属と同様に「種多様性の高い」クレードと言える.さらに,菌根性Sistotrema属菌22系統54試料の菌根を観察したところ,多くの種は菌糸束を欠く菌根形態を示し,菌糸束をもつ菌根はHydnum属と上述の2つの属レベルクレードにのみ観察されたた.ゆえに,Hydnum属および菌根性Sistotrema属の種多様性の向上には,菌糸束の獲得が関与した可能性がある. 前年度の成果の一部を国際雑誌(Mycologia, Mycoscience)に投稿し,既に公表あるいは受理された.これらの論文においてHydnum属菌とSistotrema属菌を合わせて11種,新種として記載した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた北海道および九州でのHydnum属種の野外調査は新型感染症の影響により中止となったものの,当初より隠蔽種の存在が示唆されていたH. repando-orientaleについてはこれまでに得られたデータによって精査できた.現在,この隠蔽種を新種記載するための論文原稿を準備している.また,姉妹分類群である広義Sistotrema属種の野外調査は地域が限定されたものの多数の子実体標本が得られたため研究を進めた.接種試験による宿主嗜好性の比較実験はHydnum属および広義Sistotrema属クレード間の宿主範囲を比較する目的として計画を微修正し,現在実験を準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究の総合考察に向けてデータ解析を主体として進める.Hydnum属および広義Sistotrema属クレードの種数を定量的に比較するため,GenBankデータベースからITS配列をダウンロードし,系統学的種数を推定する.さらに各系統の生態地理学的特性を比較し,属クレードの多様性との相関性を比較する.今回の解析ではHydnum属と広義Sistotrema属クレードの支持は低い傾向にあり,これらのクレードの分岐関係も不明瞭であったため,追加の領域としてrpb1領域の解析を予定している.また各クレードの分岐年代を推定することによって,宿主範囲や菌根形態の進化的変遷を考察する予定である.
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