研究課題/領域番号 |
20J20930
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
黒宮 敬介 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞競合 / メカニカルストレス / カルシウム / TRPC1 |
研究実績の概要 |
これまでの研究結果からがん変異細胞がその周囲を正常細胞に囲まれた際に、周囲の正常細胞と変異細胞との間で互いに生存を争う細胞競合現象が存在することが明らかになっている。その際周囲の正常細胞が変異細胞の存在を認識し正常細胞層から排除することが知られているが、正常細胞と変異細胞間の細胞間認識の分子メカニズムについてはほとんど明らかになっていない。最近変異細胞の共培養した正常細胞側で機械刺激受容性カルシウムチャネルの一つであるTRPC1を介した細胞内カルシウムの上昇(カルシウムスパーク)が高頻度に起こることが観察された。昨年度はTRPC1の上流として変異細胞の周囲の正常細胞でどのようなメカニカルストレスが働いているのかをtraction force microscopyやメカノセンサープローブを用いて解析した。現在までにTraction force microscopyの最適な実験条件を検討し実際に正常細胞内で働くメカニカルストレスについて現在進行形で解析をしている。また同時にメカノセンサープローブを用いてライブイメージングによる解析も行っている。 また下流として正常細胞側で生じるカルシウムスパークがどのようにして変異細胞の排除を引き起こすのか、その詳細な分子メカニズムは明らかになっていなかった。そこで下流の現象に着目した結果、周囲の正常細胞の動きが亢進していることが明らかになった。またカルシウムスパークとの関連性を調べるために正常細胞側でTRPC1をノックダウンしたところ正常細胞の動きが抑制されることが分かった。このことから周囲の正常細胞の動きが変異細胞の排除に寄与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標として以下の2つを上げている。一つ目が変異細胞の周囲の正常細胞で働くメカニカルストレスの解明である。そのためにtraction force microscopyとメカノセンサープローブの2つのアプローチ法を行った。traction force microscopyについては昨年度までに自身の実験系に最適な実験条件の検討を終えることができた。そして現在実際に正常細胞側で働くメカニカルストレスの解析を行ている最中である。もう一つのメカにセンサープローブについては細胞の膜張力を測定することができるプローブを使用し正常細胞側の膜張力を測定した。その結果、変異細胞の周囲の正常細胞では膜張力が上昇していることが分かった。これらのことから目標である正常細胞側のメカニカルストレスの解明についておおむね予定通り研究が進んでいると考えられる。 2つ目は周囲の正常細胞側がどのようにして変異細胞の排除を誘起しているのか、その分子メカニズムの解明である。結果として変異細胞の周囲の正常細胞側で、正常細胞のみの場合と比較して細胞の動きが亢進していることが明らかになった。さらにカルシウムスパークとの関係性を調べるために正常細胞側でTRPC1をノックダウンしたところ、正常細胞の動きが抑制されることが明らかになった。このことがら変異細胞の排除に関与するメカニズムとして、カルシウムを介した正常細胞側の動きの亢進が関与していることが示唆された。 以上より昨年度の2つの目標についておおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として研究計画書に記載した通り以下の3点、1. 周囲の正常細胞におけるメカニカルストレスの解析、2. 細胞間認識機構が変異細胞の排除を誘起する分子メカニズムの解明、3. 細胞間認識機構の生体内での検証を目指す。具体的に1ではTraction force microscopy等の技術を用いて変異細胞の周囲の正常細胞にかかるメカニカルストレスの解析を終える。また同時にメカニカルストレスとカルシウムスパークの時空間的な関係性についてライブイメージングを行い明らかにすることを目指す。2.周囲の正常細胞の動きの亢進がどのようにして変異細胞の排除を引き起こすのかについてそのメカニズムを解析する。具体的には正常細胞の動きの方向性を調べ、変異細胞へ向かって動いているのかどうかを検証する。また動きについてカルシウムスパークと関係性をカルシウムスパークが起こる前後での細胞の動きを測定することでより詳細に細胞の動きに対するカルシウムスパークの機能的意義を調べる。さらに3.では、1と2により細胞間認識分メカニズムとそれによる変異細胞の排除メカニズムが明らかになった後にそれらが生体内でも起こっているのかについて検証していく予定である。
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