研究課題/領域番号 |
20J20968
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
林 峻大 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 格子プラズモン / 励起子ポラリトン / 電気化学電位制御 |
研究実績の概要 |
金属ナノ構造体に誘起されるプラズモンと分子励起子が互いに強く共鳴した強結合状態形成下では、励起子ポラリトンと呼ばれる光と物質が混成した特異な励起状態が形成する。本研究では、励起子ポラリトンを用いた新たな光電変換系を創出し、励起子ポラリトンから外部へ効率的にエネルギーを取り出す手法の確立を目指す。当該年度は、まず初めに強結合形成に適した励起寿命の長いプラズモンモードによる光エネルギー集約場の設計を行った。具体的には、金ナノ粒子を二次元上に周期配列させた格子構造体を作製し、角度分解消光計測によりその光学特性を評価した。金属格子構造体では、回折光場と個々のナノ粒子のプラズモンが干渉することで散乱失活過程が著しく抑制された格子プラズモンが誘起されることが報告されている。自身の系においても、格子プラズモンの特徴である照射光角度に依存したエネルギー分散関係が明瞭に観測され、目的の構造体の作製に成功した。次に上述の金属格子構造体上にシアニン系の色素分子を担持することで格子プラズモンー分子励起子強結合系の構築を行った。金格子構造体をイオン交換樹脂であるNafion高分子薄膜を用いて被覆し膜中にカチオン性色素分子を吸着させた系では、Nafion膜厚を精密に制御することで、消光スペクトル中に励起子ポラリトンに由来するピークを再現性良く観測することが可能となった。加えて、電気化学電子制御下での強結合形成基板の消光計測を実施し、励起子ポラリトンに由来する消光ピークの電位応答を調査した結果、電気化学電位制御により強結合系のエネルギー状態を可逆的に変調できることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は研究実施計画に従い、再現性良く強結合状態を形成する金属ナノ構造体ならびに物質の探索を中心に研究を展開した。金属ナノ構造体については、様々な粒子形状、周期条件の金格子構造体を電子線リソグラフィー法により精密に作製し、その光学特性を評価することで目的の可視光波長域に格子プラズモンを誘起するための条件を明確化した。加えて新たに導入した角度分解消光装置を用いた計測により、格子プラズモンのエネルギー分散関係を算出するできた事は、次年度以降に強結合系のエネルギー分散関係を調査する上でも望ましい進展であった。一方の強結合形成物質ついては、シアニン系を始めとする各種有機色素の調査に限られ、当初の予定とは異なり無機半導体などの物質群の検討が不十分になってしまった点も否めないが、色素の担持方法についても検討を行うことで格子プラズモンと明瞭な強結合状態を形成するために必要な十分な知見が得られた。またこれらの探索研究に加え、イオン伝導性高分子であるNafion薄膜を利用した色素担持により、電気化学計測可能な強結合系の構築に成功した事も当該年度の大きな成果といえる。特に電気化学電位制御により強結合系のエネルギー状態を可逆的に変調させる技術は、励起子ポラリトンを用いた光電変換系のエネルギー変換効率の鍵となると予想される電荷分離過程の調査を行う上でも有効な手法になるものと期待される。これらの状況を鑑み、研究はおおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、異方的なエネルギー分散関係を有する金格子構造体を設計することに加え、励起子ポラリトンの伝播特性と電荷分離特性の関係解明に取り組む予定である。まず異方的な形状(長方形型、二量体型等)を有する金ナノ粒子を利用し、エネルギー分散関係に偏光異方性を有する格子プラズモンモードを持つ金格子構造体を設計する。次にこの構造体を用いて有機色素との強結合系を構築することで、照射光の偏光方向を規定することによる励起ポラリトンの伝播方向・伝播長の制御を行う予定である。強結合形成前後での系のエネルギー分散関係ならびに励起子ポラリトンの伝播方向・伝播長については、それぞれ角度分解消光計測、蛍光強度の空間分布計測により評価を行う。なお、角度分解消光計測については、これまでs偏光を用いた測定のみ実施してきたが、系に関するより多くの情報を取得するため、p偏光による計測が可能となるよう装置の一部改良を行う予定である。また励起子ポラリトンの蛍光計測に関しても、空間分布計測に加え蛍光の角度分解計測を行いたいと考えており、装置の構築に向けて既に検討を進めている段階である。加えて電気化学計測並びに電子アクセプター分子(消光剤)導入下での励起子ポラリトンの蛍光スペクトルの強度変化から励起子ポラリトンの電荷分離速度を推定し、励起子ポラリトンの伝播長と比較検討することで、伝播方向・伝播長と電荷分離特性の相関関係を明らかにしたいと考えている。
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