大きさ数十nmの金属ナノ構造体は可視光照射に伴い、自由電子の集団振動である局在表面プラズモン応答を示す。このプラズモン場と分子励起子が光エネルギーの授受を繰り返す強結合状態では、励起子ポラリトンと呼ばれる光と物質の混成準位が形成する。本研究は、励起子ポラリトンの長距離伝搬能に着目し、励起子ポラリトンを用いた新たな光電変換系の創出を目指すものである。前年度までに、格子プラズモンモードを発現する金属格子構造体を作製し、色素分子を導入することで強結合系を構築した。その上で角度分解消光計測によって照射角度に依存する励起子ポラリトンのエネルギー分散関係を取得し、励起子ポラリトンの異方的な長距離伝搬が起こりうることを実証している。 一方、励起子ポラリトンの光電変換系への適用に当たっては、その長距離伝搬能のみならず電荷分離効率も重要なファクターとなる。特に近年、励起子ポラリトンに関する量子光学理論の進展によって、光誘起電子移動反応と熱的電子移動反応双方の変調の可能性が指摘されている。そこで当該年度では、励起子ポラリトンに関する量子光学モデルと電極反応理論に基づき、構築した強結合系がどの様な電荷分離・電子移動応答を示すかについて理論的な解析に取り組んだ。その結果、光電変換系のような電極を用いる系においても、プラズモン-物質相互作用の結合強度が十分大きい領域では主にMarcusの逆転領域においてポラリトン効果による電子移動速度の変調が生じるうることを見出した。この効果は、反応ギブズエネルギーの増加に伴う電子移動速度の減少を抑制し、電荷分離プロセスの向上に繋がる可能性がある。当該年度内ではこの現象の実験的な実証には至らなかったものの、得られた知見に基づき今後、理論的解釈が容易な単電子移動反応を示す金属錯体と格子プラズモン場を用いた系を設計し、実験的検証を進めていく予定である。
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