研究課題/領域番号 |
20J20977
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邉 大貴 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | トポロジー最適化 / 積層造形 / 計算力学 / マルチマテリアル / 応用力学 / 最適設計 / シミュレーション工学 |
研究実績の概要 |
申請者の研究目的は,建設3D-printerの使用を想定した,未来型インフラ構造物の設計・施工を将来的に行っていく上で,その基盤となる最適設計法を確立することである.具体的には,異種材料間の界面剥離および材料疲労が起因する脆性的な破壊を回避するためのマルチマテリアル最適設計法を構築することである. 初年度は,まず脆性破壊を考慮した最適設計法の前段階として,固体材料が持つ固有の強度を超過しないような最適化手法の提案を行った.そのポイントは大きく2つ存在する. 1.密度法をベースとした,人為的な材料間の数理的表現手法の提案 2.従来の応力制約式に代わる,応力を制御できるような目的関数の設定 1について,本来密度法では表現が困難な材料界面の不連続量を,密度フィルターと呼ばれるスケーリング手法を基に新しく定式化を行った.検証の末,その提案手法は強度の制御に耐えうる性能を持つことが分かった.2について,マルチマテリアルトポロジー最適化では,「固体材料をどこに配置するか」という問題に加えて「どの材料を配置するか」という問題も数理的に解くため,計算が困難な問題となる.そのため,従来の応力制御手法を,そのまま当てはめるだけでは解くことが難しいことが検証の末明らかとなった.そこで,各固体材料に加えて材料間の強度も考慮できるような最適化問題における目的関数を新しく提案した.更に,材料間の等価応力式として,従来の簡単なミーゼス応力ではなく,材料界面の剥離モデルを適用した.以上のような手順を踏むことで,接着剤を用いた場合の特異性に対応できるような構造デザインを得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の異なる材料を適材適所で用いるマルチマテリアル化と,複雑な形でも容易に造形できる3D-printerによるものづくりは,これからの新しい製造・生産システムを担う革新的な技術であり,これを社会インフラ構造物の施工にも応用する試みが世界的に進められている.本研究は,土木構造物をはじめとする社会インフラ・構造物の脆性破壊を防ぐために,複数の異種材料を活用してそれを可能にする仕組みを見出し,それをマルチマテリアルトポロジー最適化手法の発展系として新たな枠組みを構築するものである. 初年度は,これまでに構築した理論をプログラムに実装し,さらなる拡張を見据えて数値的検証を行うところからスタートした.その際,最適化問題の非凸性が起因する数値不安定性と最適化モデルへ実装する際の正則化が本研究を進める上で重要なポイントになることを明らかにした上,その改善策を見つけるために種々の方法を実装し,数値実験と評価を行った.一方で,マルチマテリアル構造においては材料界面の取り扱いは重要なポイントとなることから,それに関連する有用な知見を文献や国際会議を通じて収集し,それを考慮した界面モデルの概略計算ができるところまで進展させた.これについては,次年度の研究に着手する上で有効であると思われる. 以上の成果は,既に国内外の学会において発表・議論が行なわれており,本研究課題に対する取り組みに問題はないと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は,前年度で作成したプログラムをさらに拡張する.現在までの手法で得られる構造は,固体材料とその材料の密度・剛性・強度を考慮した,実設計に適応可能な手法だと言える.その一方で,構造に破壊が起きないことを前提としているため,初期不良や疲労による破壊が起きた場合のことは考慮できない.インフラ構造物には,万が一破壊が発生しても,「安全な壊れ方」になることが必要である.まず,微小変形理論・線形弾性体のシンプルなモデルで破壊エネルギーを抑える手法を構築し,その手法について厳密な検証を行う.その後は,材料非線形性や動的挙動を有する問題への発展を考えている.また,いずれかのタイミングで,問題の複雑性が起因の数値不安定性が生じると思われるため,最適化アルゴリズムに新しい工夫が必要になる事が考えられる.したがって,そちらの準備も進めていくことで研究に邁進する所存である.
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