研究課題/領域番号 |
20J20996
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
市丸 裕晃 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | タラゼラチン / 組織接着性 / 疎水性相互作用 / デカニル基 / エレクトロスピニング |
研究実績の概要 |
本年度は、「抗がん剤徐放能を有する組織接着性メッシュの創製」の研究課題に向けて、湿潤環境における組織接着能を有するメッシュの調製とその最適化を行った。 具体的には、スケトウダラ由来ゼラチン(以下、タラゼラチン(ApGltn))の一部に炭素鎖長10のデカニル基を修飾した疎水化タラゼラチン(C10-ApGltn)を主成分とする組織接着性メッシュを調製し、肺組織に対する接着性/耐圧強度および生体親和性について評価した。 ブタ胸膜組織に対する耐圧強度試験を行った結果、C10-ApGltnメッシュは、疎水基を修飾していないオリジナルApGltn(Org-ApGltn)メッシュと比較して耐圧強度が約2倍増加することが明らかとなった。さらに、ラット背部皮下にメッシュを埋入した結果、強い炎症反応を生じることなく、21日間以内にメッシュが分解することが明らかとなった。 しかし、ブタ胸膜組織に対するC10-ApGltnメッシュの耐圧強度が安定化するまでに組織貼付後10分間要するという課題も確認された。本課題を解決するために、作製したC10-ApGltnメッシュ表面にUV照射を行い、メッシュ表面に親水基を導入し、メッシュ/組織間の親和性の向上を行った。得られたC10-ApGltnメッシュ表面にUV照射を行い、X線光電分光法(XPS)によって評価した結果、UV照射前後においてメッシュ表面のカルボン酸存在比が3.8%から26.9%へ増加することが明らかになった。また、ブタ胸膜組織に対する耐圧強度試験を行った結果、UV照射を行ったメッシュは、組織貼付後2分間で耐圧強度が安定化することが確認され、UV照射していないC10-ApGltnメッシュと比較して耐圧強度が約3.2倍増加することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度では、肺組織への接着能を有する組織接着性メッシュの調製を目的として、研究を行った。具体的には、種々の疎水基鎖長および導入率の疎水化タラゼラチンを合成し、エレクトロスピニング法を用いて疎水化タラゼラチンファイバーメッシュの作製を行った。作製したメッシュの微細構造、力学特性等の物理化学的性質を評価した。また、作製したメッシュの組織接着性をブタ胸膜組織/ラット摘出肺を用いて評価し、最大耐圧強度が得られる疎水基鎖長・導入率条件を明らかにした。さらに、生体分解性・親和性を評価するために、ラット背部皮下にメッシュを埋入した結果、強い炎症反応を生じることなく、21日間以内にメッシュが分解することが明らかとなった。 以上の研究成果より、本年度の研究進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している。」と判断致しました。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度では、生体組織貼付後、数分以内の短時間で40 cmH2O以上の耐圧強度を有する組織接着性メッシュの設計を行う。 短時間で高い耐圧強度を得るための材料設計としてメッシュの膨潤度に着目し、メッシュの水・生理食塩水に対する不溶化処理方法を検討する。具体的な方法として、タラゼラチンに修飾した疎水基の疎水性相互作用による物理架橋を利用し、メッシュの不溶化を検討する。作製したメッシュの膨潤度等の物理化学的特性の評価に加え、肺組織を含めた様々な生体組織に対する耐圧強度試験を行う。 さらに、得られたメッシュに抗がん剤を導入し、抗がん剤導入メッシュの組織接着性、膜強度、抗がん剤徐放能および抗がん効果について評価する。
|