本研究の目的は、多細胞同時記録と光遺伝学的制御を用いて、記憶の形成と固定化、想起の際に、海馬と側頭皮質のニューロン活動がいつどのように変化し、記憶の実体であるメモリーエングラムの形成にどのように関与するのかを明らかにすることである。 昨年度に引き続き、音弁別連合記憶学習課題遂行中のラットの一次聴覚皮質(A1)から神経細胞活動を記録・解析した。この課題では、ラットが鼻を入れるポートと報酬(餌)の出るマガジン、音刺激を提示するためのスピーカーが設置されたオペラントボックスを用いた。ラットは提示された音が高音であればポート A、低音であればポート B に鼻を入れると報酬を得ることができ、音の種類(高音と低音)とポートの場所(A と B)を連合し学習した。この記憶課題遂行中のラットの聴覚皮質 からテトロードを用いてニューロン活動を記録した。ニューロン活動の解析を行った結果、一次聴覚皮質 において、多くの神経細胞が高音と低音のどちらかに対して発火頻度を変化させた(Frequency-selective cell)。さらに左右ポートの方向と報酬の有無に選択性を持つ神経細胞が確認された。この神経細胞は左右どちらかを選択して報酬を得たタイミングで発火頻度を上昇させた。そしてこのような活動を示す神経細胞の割合が学習中に比べ、学習完了後に増加することが分かった。これらの結果をまとめた論文を国際誌に投稿し受理された。 また、テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターにて、海馬、嗅内皮質、前頭前皮質の3領域同時記録用マイクロドライブを新たに設計・開発し、自由行動下のマウスの3領域同時記録を行った。
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