3d軌道に電子を持つ一種の遷移金属酸化物材料の二酸化バナジウム(VO2)は、室温近傍で巨大抵抗変化を伴う金属-絶縁体相転移を示す。相転移を活用した素子応用研究がVO2の薄膜物性と共に注目されており、例えば電圧印加によりジュール熱を発生させて相転移が誘起できれば、電子スイッチングが実現可能となる。 VO2薄膜の中でも、新奇な2次元層状六方晶窒化ホウ素(hBN)上のVO2薄膜は3桁の明瞭な抵抗変化を伴う相転移特性を示す。加えて、VO2薄膜の相転移では、絶縁体領域中に金属ドメインと呼ばれる空間領域が不均一に出現し、金属ドメインサイズは相転移特性を決定する重要なパラメータとなる。VO2/hBN薄膜では金属ドメインサイズがサブミクロスケールで、金属ドメインの出現が光学顕微鏡により観察可能である。これらの背景から、VO2/hBN薄膜は相転移ダイナミクスを伴う電子スイッチング素子応用の対象材料として適すると考えた。 本研究では、VO2/hBN薄膜に電極間距離が約2 μmの2端子電極を取り付け、電気伝導特性を評価した。結果、温度変化時に金属ドメイン生成および閉じ込めに伴う階段状抵抗変化が観測された。また、室温での電流-電圧特性では、温度変化時と同様に金属ドメインの生成および閉じ込めを反映した階段状電流上昇が観測された。金属ドメイン生成は同時測定のオペランド観察からも確認され、VO2/hBN薄膜の金属ドメインを活用した素子応用(ドメインエンジニアリング)に向けた知見が得られた。
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