研究課題/領域番号 |
20J21011
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
伊東 昇紀 明治大学, 明治大学大学院農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ラン藻 / バイオプラスチック / 有機酸 / 糖異化 / クエン酸回路 / 酸化的ペントースリン酸経路 / 乳酸 / コハク酸 |
研究実績の概要 |
環境負荷や石油資源の枯渇が懸念される近年、生物由来のバイオプラスチックが注目されている。私たちは、ラン藻という光合成を行う細菌を用いて、二酸化炭素からバイオプラスチック原料となる有機酸を生産することに成功した。しかしながら、その生産効率は、実用化レベルには達していない。生産効率の向上を難しくしている最大の要因が、「生化学的知見の不足」である。生化学的な研究として、遺伝子の発現制御に関する研究は盛んに行われてきたが、酵素の活性制御に関わる研究が、ほとんど行われてこなかった。そこで、本年度は、有機酸生産において重要な「酵素」に着目した解析を行い、その制御機構を解明した。 初めに行ったのが、「酵素の生化学解析」である。有機酸は、糖異化経路から生成する。私は、糖異化経路の上流「酸化的ペントースリン酸(OPP)経路」と下流「クエン酸回路」の酵素の解析を行った。その結果、OPP経路とクエン酸回路は共に、還元力NADPHの生成経路であることが判明した。さらに、クエン酸回路の「クエン酸」が、OPP経路酵素の活性を阻害することが判明した。以上から、クエン酸が、NADPHの過剰生成を避けるための調節因子であることが示唆された。このように、1つ1つの酵素の解析を行うことで、2つの重要な経路間の「生化学的なつながり」を明らかにすることに成功した。 次に行ったのが、「代謝経路の再構成」である。酵素の生化学解析では、隣接する酵素との相互作用や時間的な代謝の変化を反映していない。そこで、私は、精製した酵素を用いて、試験管内で有機酸生成経路の一部を再構成して、解析した。その結果、pHやマグネシウムといった有機酸生成経路の流れを決定する重要な因子を発見にすることに成功した。本解析法は、代謝変化の過程を明確にすることができる私独自の解析法であり、今後、生物全般の代謝解析法として広く活用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、有機酸生成経路を構成する1つ1つの酵素の制御機構に加えて、代謝経路レベルの制御機構を明らかにすることに成功した。本研究によって、これまで行われてきた代謝フラックス解析やメタボローム解析では明らかにすることができなかった「有機酸生産に至るまでの代謝変化の過程」を明確にすることに成功した。本研究で得られた知見をもとに、ラン藻の培養法や代謝改変を検討することで、有機酸のさらなる増産につながることが期待される。さらに、本年度は、それらの研究成果を原著論文として、国際誌に発表することに成功した。そのうち、代謝経路レベルの制御機構に関する研究を記した論文は、The Plant Journal誌のリサーチハイライトに選出された。上記の成果は、研究実施計画に記した以上のものであり、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度の知見をもとに、有機酸の増産方法を検討するだけでなく、これまでに培った解析技術を駆使して、「未知の代謝反応」の解明を行う。これまでの研究から、ラン藻のクエン酸回路におけるリンゴ酸酸化反応は、他の生物とは異なる代謝酵素によって触媒されていることが示唆された。リンゴ酸は、バイオプラスチック原料となる2つの有機酸(コハク酸、乳酸)の前駆物質であり、リンゴ酸酸化反応の解明が、ラン藻の生命活動の理解と物質生産の両方において重要であると考えられる。酵素の生化学解析などのin vitroでの解析に加えて、ラン藻の細胞を用いたin vivoでの解析と酵素のアミノ酸配列を用いたin silicoでの解析も行い、多方面からの証明を行う。
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