ラン藻は、二酸化炭素から様々な有用物質を生産する。Synechocystis sp. PCC 6803(以降Synechocystis)は、モデルラン藻として、基礎・応用研究の両方で利用されている。本研究チームは、Synechocystisが、クエン酸回路を経由して、バイオプラスチック原料を生産することを発見した。しかしながら、Synechocystisのクエン酸回路の代謝フラックスは、他の代謝経路と比べて著しく小さい。そのため、バイオプラスチック原料の増産に向けて、クエン酸回路の流れを決める生化学的要因の発見が急務となっている。 リンゴ酸脱水素酵素(MDH)は、クエン酸回路のリンゴ酸酸化を触媒する。前年度までの研究で、SynechocystisのMDHは、他のクエン酸回路の酵素と補酵素が異なることが判明した。また、MDHは、リンゴ酸酸化に対する活性が低く、逆反応に対して高い特異性を示す。これらの結果から、「MDHがリンゴ酸酸化を触媒しない」という仮説が生まれた。Synechocystisは、他のリンゴ酸酸化酵素として、マリックエンザイム (ME)をもつ。本年度は、MEとMDHに着目した解析を行い、リンゴ酸酸化の触媒メカニズムを解明した。 MEは、他のクエン酸回路の酵素と同じNADP+を補酵素とした。また、MEは、MDHの約260倍の活性を示した。MDHの欠損株と異なり、MEの欠損株は、生体内にリンゴ酸を蓄積した。したがって、Synechocystisのクエン酸回路では、MEが、リンゴ酸酸化を触媒すると考えられる。このクエン酸回路では、NADHの代わりにNADPHが生成する。Synechocystisでは、光合成と酸化的ペントースリン酸経路が、生体内の主要なNADPH生成系として機能する。クエン酸回路は、これらの系と競合しているため、代謝フラックスが小さいと考えられる。
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