研究課題/領域番号 |
20J21047
|
研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
森 勇斗 一橋大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 民法 / 錯誤 / 不実表示 / ミクストリーガルシステム / リスク配分 / error-mistakes approach / misrepresentation / mixed legal system |
研究実績の概要 |
COVID-19流行により、在外研究の実施は見送ることとなったが、資料研究に於いては一定の成果をみた。同成果は拙稿「日本錯誤法の「アプローチ」的位置付け及び理論的再構成(1)――error型アプローチ、mistakes型アプローチ、error-mistakesアプローチ、そして日本の錯誤のリスク転換構造」一橋法学20巻1号409-447頁及び同(2)一橋法学20巻2号[採録決定済み, 頁未定]にて纏めた。
本成果物では、次のことを提示した。 日本民法典を遡り、現在の定説的理論の形成過程から、日本に限らずその理論の継受元たるドイツやフランスに於いても、既に錯誤法の理論的基礎が存しないとして、新たな理論たる、当事者間での錯誤となる/ならないことによる「リスク」の所在と転換構造という考え方の示唆を試みた。そのリスク転換構造の整理にあたっては、本邦の民法のみでは、構造的実態、位置付けが明らかでないため、大陸型に於けるerror型アプローチ、コモンローに於けるmistakes型アプローチ、そして、混合法域に於けるerror-mistakesアプローチといった三分類を基に、それぞれerror型につきドイツ及びフランス、mistakes型につきイングランド、error-mistakes型につき南アフリカとスコットランド、そしてオランダを参考にし、その上で、日本法でのアプローチの相対化を行なった。これを踏まえ、日本法の現状として、相手方の態様を慮りリスクの配分を行う等の点で、「第三のアプローチ」としてのerror-mistakes型アプローチであると評価し、「錯誤」を「リスク」として捉えた上で,ア)原則的なリスクの所在の特定と、イ)錯誤者側、或いは相手方に拠る「一種の抗弁」及びその要件の主張により「リスク」が転換されて之くという、「『訴訟スキーム』的把握」にて理論的な再構築が可能であるとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料の入手、整理、それに基づく成果物の公開は行うことができたが、やはり現地調査の断念をやむなしとしても、Cambridge、Edinburgh両大学での研究報告の断念により、error, mistakes, error-mistakesといった多様な錯誤アプローチの観念と分類法につき、各法域に属する研究者からのフィードバックを得られなかった点については、錯誤構造の解明という研究目標に対して遅れを生じさせている。
しかしながら、当科研費により、より広範囲且つ、体系的な資料の輸入・整備を行ったため、この成果として、直接の比較対象国ではないものの、比較対象国が参考として牽いたであろう、スイスやオーストリア、或いは、ヨーロッパ私法(UNIDROIT, PECL 及びCESL等)に関する文献にて、リスク配分論を検討する素材としてのそれらの地域の法ないし、モデルローへの理解・調査は深まったものと自己評価している。加えて、上記在外研究に代えてRAを雇用し、新たな「能動型交錯法」の可能性を有する中華人民共和国民法典(2021年1月1日施行)の、特に契約(合同)部分に関する翻訳・検討を行い、今後の研究に当該知見を組み込む下地ができている。
以上を以って、当初の計画からの変更こそあれ、概ね順調に進展しているものと自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
現在の構想として、夏季に於いて、昨年度実施できなかった現地研究者との、研究会も含めた研究交流をオンラインにて実施する予定である。これにあたっては、第一には、こちらの現状の成果の一部を英語化したものを土台に、現地の情報をご教示頂きつつ行うチュートリアルであり、第二には、昨年度行う予定であった、Cambridge及びEdinburghでの報告を行い、前者では主にコモンロイヤーとしての、後者ではミクストリーガルシステム圏の現地研究者としての視点から、示唆を得ることを期待して行うものとする。これにより、上記成果物に於ける、イングランド、スコットランド各地域での訴訟スキーム的把握によるリスク配分構造と、実際の訴訟スキームに於けるリスク配分構造の間での乖離がないかの解像度を上げることを目的とする。ひいては、後段にて記す日本錯誤法のアプローチを、相対的に位置付けるということにも繋がりうる。
日本錯誤法の相対的位置付けにあたって、①比較法部分につき、上記の現地研究者との研究交流のほか、令和二年度までに得た資料を基に、判例分析も含め、各国の固有の状況につき、解像度を高め、②日本法部分につき、①より得られた状況を基に、現在、拙稿で述べている「リスク配分構造」や、それを裏付ける「『訴訟スキーム的』把握」という概念につき、再度、他の資料や判例の検討を通してより解像度の向上を試みる。
|