研究課題
膠芽腫(GBM)は、あらゆるがんの中で最も予後不良の中枢神経系腫瘍であり、根本的な治療法の開発が望まれている。近年、「がん幹細胞の幹細胞性」と「がんの病態」に緊密な関連性が示されており、GBMの発症・進展や抗がん剤・放射線に対する抵抗性においても、グリオーマ幹細胞(GIC)の幹細胞性維持機構が重要な役割を担うことが報告されている。我々はこれまでに、SMURF2のリン酸化修飾(SMURF2T249)が、TGF-βシグナルによるGICの幹細胞性維持機構とグリオーマ進展制御機構において重要である可能性を見出している。そこで本研究では、「SMURF2リン酸化修飾によるGICの幹細胞性調節機構」を解明し「がん幹細胞のSMURF2T249を標的とした抗がん剤開発の基盤確立」を目指す。本年度は、GICの幹細胞性の維持、及びグリオーマの病態進展に関与するSMURF2下流の責任因子を同定すべく、ヒトGICにSMURF2T249リン酸化不活性化体を導入しタンパク質発現解析を実施した。加えて、機能阻害型のレスキュー実験としてshRNAを用い、スフィア形成能と腫瘍形成能を評価した。その結果、ヒトGICにおけるSMURF2T249リン酸化不活性化によりTGFBR1の発現が有意に上昇した。さらに、TGFBR1をノックダウンすると、SMURF2T249リン酸化不活性化により増強したスフィア形成能が有意に抑制され、短縮したグリオーマモデルマウスの生存期間が有意に延長した。すなわち、SMURF2T249リン酸化修飾によるGICの幹細胞性調節、及びグリオーマ進展制御におけるSMURF2下流の責任因子としてTGFBR1が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究成果より、ヒトGICにおけるSMURF2T249リン酸化不活性化によりTGFBR1の発現が有意に上昇した。さらに、TGFBR1をノックダウンすると、SMURF2T249リン酸化不活性化により増強したスフィア形成能が有意に抑制され、短縮したグリオーマモデルマウスの生存期間が有意に延長した。以上の結果から、SMURF2T249リン酸化修飾によるGICの幹細胞性調節、及びグリオーマ進展制御におけるSMURF2下流の責任因子としてTGFBR1が示唆された。このことから、本年度の目標であった「SMURF2のリン酸化修飾によるグリオーマ進展制御のメカニズムの解明」が達成されたと考えられる。
次年度は、「SMURF2のリン酸化修飾を標的としたグリオーマ新規治療薬の有用性」を明らかにすることを目指し、以下の検討を実施する。SMURF2T249特異的に作用するホスファターゼを阻害する化合物を、化合物ライブラリーを用いたスクリーニングにより同定する。加えて、見出した化合物を暴露したヒトGIC(TGS-01細胞)のスフィア形成能測定や、グリオーマモデルマウスへの投与実験により、化合物がヒトGIC(TGS-01細胞)の幹細胞性やグリオーマの病態進展に与える影響を検討する。
すべて 2022 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 備考 (3件)
Communications Biology
巻: 5 ページ: 22
10.1038/s42003-021-02950-0
https://www.gifu-pu.ac.jp/news/2022/01/post-69.html
https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2022/01/entry12-11245.html
https://research-er.jp/articles/view/106670