研究課題/領域番号 |
20J21098
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡 健太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 木星 / 金属水素 / 高温高圧実験 / ダイヤモンドアンビルセル / レーザー加熱 / 電気抵抗測定 / X線回折 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、木星内部の水素の状態を探ることを目的とし、100万気圧/1500 K付近に存在するとされる分子から金属への相転移境界を電気抵抗測定によって同定することを目標としている。令和2年度は、以下の3つの技術開発を行った。 【1.絶縁素材による水素封止材の開発】これまでダイヤモンドアンビル加圧装置(DAC)を用いた、純水素の高圧下における電気抵抗を測定する研究は、常温~0Kの低温領域に限られていた。これは、高温において水素の流動性・反応性が非常に高くなり、水素がDACの試料室から外に漏れ出てしまうためである。私は、電気抵抗測定用の絶縁試料室素材として用いられるセメント(通常では、高温で水素が漏れ出てしまう)でできた試料室の内壁に、優秀な水素封止素材として知られるNaClを配置することで、水素を安定的に高温高圧にする手法を開発した。 【2.水素充填装置と干渉しない電気抵抗測定装置の開発】水素を気体のままDACにサンプリングすることはできないため、沸点まで冷やされた液体状態の水素をDACに充填する特殊な装置が必要になる。この水素充填装置の内部は非常に狭く、通常はDACに配線された電気抵抗測定用金属線が干渉してしまう。私は、DAC製造会社であるシンテックと協力し、水素充填装置内で配線が干渉しないDACを設計し、実際に水素をサンプリングすることに成功した。 【3.レーザー加熱式DACによる透明物質の加熱手法の開発】通常、水素のような透明な物質は、加熱用のレーザーを透過してしまい、本研究の目標温度である1500Kまで加熱することができない。私は、透明物質の上下に配置した電気抵抗測定用の電極をレーザー加熱することで、挟まれた透明物質を均質に加熱しつつ、加熱部分の電気抵抗を測定する技術を開発した。実際に、透明物質であるNaClの電気抵抗を30万気圧/2000Kまで測定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標である、高温高圧下での水素の電気伝導度測定に関して、上記3つの開発はおおむね令和2年度内で完了している。特に3点目の【レーザー加熱式DACによる透明物質の加熱手法の開発】については、計画当初に予定していた「内部抵抗加熱式DAC」を用いた加熱手法よりも、簡便に水素を目標の温度圧力にすることができる手法を開発することができた。 本研究の遂行にあたって必要な技術は、令和2年度内で開発を終えることができ、進捗状況としてはおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上記で開発した手法を用いて、水素の100万気圧/1500Kにおける電気抵抗を測定することにより、木星内部条件での水素の状態を探索する。高温・高圧になればなるほど、加圧装置のダイヤモンドの破損や、水素の漏洩、電気抵抗測定用電極の断線など、実験を阻害する要素は増えていくことになるため、段階的に達成温度・圧力条件を挙げながら研究を進めていく。 圧力測定にあたっては、大型放射光施設SPring-8の放射光X線回折測定装置を利用することを想定している。 また、現在水素をDAC内にサンプリングするために使用している液化水素充填装置は、水素を沸点まで冷却するのに5時間・サンプリング後に常温に戻すのに3時間かかっており、実験の試行回数を増やすうえでのボトルネックになっている。この問題を解決するため、令和3年度からSPring-8に導入予定の「ガス充填装置」を用いることを計画している。ビームライン担当者との試験運転をすでに済ませており、これまで10時間弱かかっていた水素のサンプリングが、このガス充填装置を使用することで1時間程度まで短縮できることが分かった。これにより、試行回数を大幅に増すことができると期待される。
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