研究課題/領域番号 |
20J21158
|
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
佐瀬 文一 東京都立大学, 大学院システムデザイン研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 片耳難聴 / トラカフマイク / 音像定位 / スペクトラルキュー / 補聴器 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目標は,片耳難聴者のQOL向上であり,そのために,音の方向認知について改善可能な,補聴システムの開発を目指している.本研究で検討する事項は,(1)片耳での音空間知メカニズムの解明,(2)最適デバイス設計・開発,(3)最適補聴システムの実用性検討,の三つが考えられる.この中で,研究計画では特別研究員採用期間一年目は,(1),(2)の研究を中心に進める予定であった.今年度の研究実施状況を,上記三つの項目について以下に述べる, (1)について,被験者のデータを得るためには,片耳難聴の実験協力を得ることが必要になる。今年度は,片耳難聴者のコネクションを広げ,追加で2名の実験データを得られた。被験者の聴感度の違いによって,片耳難聴者が音の方向認知を行うために利用している手がかりが異なる可能性が示唆され,実験データを増やすとともに,新たな知見を得ることとなった. (2)について,片耳難聴者が利用する音の方向認知の手がかりは,耳介によって発生する,音の到来方向ごとに異なる音色のピークやノッチ(スペクトラルキュー)であることが考えられる.スペクトラルキューは,個人差が大きいことが知られる.すなわち,片耳難聴者の音の方向認知の補助となるシステムには,個人のHRTFを取得することが必要となる.今年度は,個人のHRTFを取得する方法として,耳珠を利用したマイク固着法である‘トラカフマイクシステム’を提案し,その評価を行い,日本音響学会にて発表した. (3)について,本研究においては,比較対象となる,既存の片耳難聴者用補聴器(クロス補聴器)を使用した場合の音の方向認知について,初期検討を行った.結果として,クロス補聴器のシステムでは,音の方向認知の問題を解決しないことを確認した。さらには,むしろクロス補聴器を利用することで,音の方向認知については,阻害されることがわかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記研究実績の概要における,(1)の被験者実験について,コロナウィルス感染症の蔓延により,実験の実施が困難な時期があった.(2),(3)の事項については,可能な範囲で研究を進められたが,(1)の,音の空間認知のメカニズムについての知見に依存する部分もある.以上の理由から,現在までの進捗状況については,やや遅れていると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
研究の推進には,実績の概要における(1)について,多くの被験者実験を行い,十分なデータを確保することが求められる.実験は,片耳難聴を持つ実験協力者を当研究施設に呼び,実地で行わなければならない.昨年度は非常事態宣言期間中など,コロナウィルス感染症の蔓延を防ぐため,実験の実施を延期していた. 現状,感染症の蔓延が収まったとは言えない状況が続いている.今年度においては,研究の推進のため,感染症対策を十分に講じたうえで実験を実施することを計画している.実験方法を再検討し,実験は実施で行うものの,被験者と実験オペレーター,関係者との距離が十分に確保できるように,実験用のシステムを構築した. 上記方策により,(1)の研究を推進するとともに,(2),(3)の事項についても引き続き検討を進めていく.
|