研究課題/領域番号 |
20J21161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植松 祐真 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | シリコン崩壊点位置検出器 / Ks中間子の崩壊点再構成 / 光子の背景事象除去 |
研究実績の概要 |
Belle II実験でB中間子の輻射崩壊B→K*γ→Ksπ0γの再構成に重要なシリコン崩壊点位置検出器(SVD)の運転と解析ソフトウェアの開発に貢献した。 (運転)SVDの時間分布から発見された加速器の不調を監視するグラフを用意した。1月からSVD運転の調整役も務めた。これらはより多くの実験データ、ひいてはその解析結果からより多くの知見を得ることに直結する。 (解析ソフトウェア1)荷電粒子の飛跡を検出器のヒット信号から再構成する際、最も外側のヒット信号からビーム衝突点まで物質を通過するごとに多重散乱による飛跡の変化と不定性を考慮に入れる。しかし、Ks中間子などの寿命が比較的長い粒子の場合、数cmビーム衝突点から離れたところで崩壊することも多いため、再構成にあたっては娘粒子から親粒子が通り過ぎた物質の多重散乱を取り除いて崩壊点の精度を向上している。これに加え、共同研究者とともに、親粒子が通り過ぎた検出器のヒット信号を娘粒子の飛跡から取り除くよう改良し、飛跡のズレが小さくなり誤差の過小評価も防ぐことをシミュレーションで確認した。本研究ではB中間子の崩壊点位置はKs中間子の崩壊点位置からビーム衝突点まで運動量を巻き戻して再構成される。このようなKs中間子の崩壊点を用いる時間依存CP非対称度の測定全般でこのソフトウェアの性能が解析結果の精度に直結する。 (解析ソフトウェア2)B中間子から輻射される光子は高エネルギーのため多くの背景事象とは区別できるが、π中間子やη中間子が光子二つに崩壊する際片方が高エネルギーを持つと区別が難しい。このため多変量解析によってπ(η)中間子由来らしさを求める解析ソフトウェアが開発されたが維持されていなかった。そこで、最新のシミュレーションで性能を評価し、構成や使い方の説明と合わせ文書にまとめた。このソフトウェアは輻射崩壊の解析全般の背景事象除去に必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Belle II実験でB中間子の輻射崩壊B0 →K*0 γ→KS π0 γの時間依存CP非対称度を測定することで、新物理の情報を探ることを目的としている。この信号の再構成はKs中間子の再構成、輻射光子の選定、そして残りの光子からのπ0中間子の再構成、という3つのステップに分けられる。時間依存CP非対称度は、ビーム衝突によって生成される2つのB中間子の崩壊時刻の差の分布を、相方がB中間子か反B中間子かによって区分して、分解能関数によって鈍化された理論的な確率密度関数で同時にフィットすることで測定する。崩壊の時間差は2つのB中間子の崩壊点位置から求めることになるが、信号崩壊では娘粒子のうち唯一飛跡の残るKs中間子の崩壊点位置からビーム衝突領域まで崩壊点運動量を用いて巻き戻すことで決定する。 2020年度は、主としてKs中間子の崩壊点の精度を向上させるソフトウェアの改良に取り組んだ。また、輻射光子の選定のためにπ中間子やη中間子の崩壊による光子を取り除くためのソフトウェアの性能評価にも取り組んだ。この2つの解析ソフトウェアは本研究に不可欠なものであり、未だ改良の余地があるとはいえ、当初の予定通り1年間でこれらに取り組むことが出来た。 また、本研究に必要な、共同研究者によって開発されている他の解析ソフトウェアの進捗についても、相方がB中間子か反B中間子を判別するソフトウェアの開発や分解能関数の構築、ビーム衝突点位置の測定手法の開発などが滞りなく進んでいる。 これらを踏まえて、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
精度の良い実験結果を得るために、まずは引き続きKs中間子の崩壊点の再構成の性能向上に取り組む。Ks中間子の崩壊点の精度を向上させるソフトウェアは、計算速度の高速化のための飛跡候補選別や崩壊点フィットの失敗等により、信号候補の約二割に対して用いることができていない。より多くの信号候補に対して機能させるために、内部での飛跡候補選別を最適化するとともに、崩壊点フィットを解析的に求まる崩壊点推定に置き換えることを検討している。 解析に重要なソフトウェアの改良の次は、実際にそれらを用いてB中間子の輻射崩壊の再構成に取り組む。本研究ではKs中間子の崩壊点からビーム衝突領域まで外挿することでB中間子の崩壊点を求めるため、他の荷電粒子を含む崩壊と比べ分解能が悪くなる。この影響を考慮するため、他の崩壊の分解能関数を参考にしつつも独自のものを構成する。 次に、信号崩壊でのB中間子の寿命や荷電B中間子の輻射崩壊のCP非対称度を測定し、解析ツールの性能評価を行う。そして、モンテカルロシミュレーションで生成したデータを用いて信号選別・背景事象除去の最適化に取り組み、設定したCP非対称度が求まることを確認した上で、実験データの解析に臨む。
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