研究課題/領域番号 |
20J21161
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
植松 祐真 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 中性K中間子の崩壊点再構成 / 機械学習を用いたB中間子の候補選別 / 崩壊点フィットの分解能モデル |
研究実績の概要 |
Belle II実験でB中間子の輻射崩壊の時間依存CP非対称度の測定に向けて、昨年度に続き解析ソフトウェアを改良した上で、シミュレーションを用いて信号B中間子の選別手法を開発し、その崩壊時間差モデルを構築した。 (解析ソフトウェアの改良)時間依存CP非対称度の測定に必要なB中間子の崩壊点位置は、信号崩壊の生成物のうち中性K中間子から決定する。中性K中間子の崩壊点位置と運動量は2つの荷電π中間子対の飛跡から測定するが、このソフトウェアにより2割の信号が捨てられていた。そこで、新たに不変質量での選別を導入し、選別条件を緩めることで、計算時間とデータ量の増加を1-2%に抑えつつ効率を95%まで改善した。 (B中間子候補の選別)B中間子候補は光子、中性K中間子と中性π中間子を組み合わせて構成するが、電子と陽電子の衝突からはB中間子対の3倍以上のクォーク対が生成されてしまうため、多くの偽候補を含む。そこで、不変質量などの観測量に加え、特有の偽候補を区別するための機械学習も用いて候補選別を行った。複数の選別条件を差分進化で同時に最適化することで、Belle実験の1.7倍の信号選別効率を達成した。崩壊点位置検出器の大型化による中性Κ中間子の検出効率向上と電磁カロリメータ前の障害物の撤去による中性π中間子の検出効率向上も合わせて信号効率は3倍になると期待される。 (崩壊時間差モデルの構築)まずは、選別されたΒ中間子候補を信号崩壊と3種類の背景事象に分類し、それぞれで崩壊時間差をモデル化した。特に、崩壊点フィットの不確かさをカイ二乗で補正してより正確な検出器分解能モデルを構築した。そして、各分類の割合をB中間子のエネルギーと不変質量ごとに求めて、加重平均によって崩壊時間差をモデル化した。このモデルを用いて測定したB中間子の寿命はシミュレーションの設定値と一致したため、モデルの妥当性を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究の目的は、B中間子の輻射崩壊の時間依存CP非対称度から標準模型を超える物理の性質を調べることである。時間依存CP非対称度は、対生成されたB中間子の崩壊時刻の差を、相方が正B中間子か反B中間子かで分類して、検出器分解能を含めた確率モデルでのフィットで測定する。 2021年度は、主に信号B中間子候補の再構成と選別、そして崩壊時間差のモデル化に取り組んだ。これらにより、解析手法の主要な開発要素は揃ったと言える。 しかしながら、新型コロナウィルス感染症の影響により共同実験者の研究所への来訪が制限されたため、本来共同研究者全員で分担する運転シフトを研究所周辺の共同研究者のみで負担しながら研究に必要な実験データの取得を継続した。シフト取得数の増加に伴い研究に専念できる時間が減ってしまったため、当初の予定を超えて1年半の期間が必要となった。 これを踏まえて、本研究はやや遅れていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシミュレーションを用いて解析手法の開発に取り組む。B中間子の崩壊時間差モデルに基づいて、時間依存CP非対称度を測定するソフトウェアを開発する。そして、同一のモデルに基づいて生成した擬実験を解析して動作を検証する。その上で、シミュレーションの解析結果が設定値と一致することを確認して解析手法を確立する。 次に、シミュレーションと実験データとの較正に取り組む。電磁カロリメータでの光子のエネルギー漏れがシミュレーションでは不十分なため、信号崩壊の中性K・π中間子の代わりに荷電K・π中間子を組み合わせてB中間子を構成し、そのエネルギーの実験データとシミュレーションとの差異から光子のエネルギーを較正する。また、崩壊点位置分解能を較正するため、ビーム衝突実験中に測定した宇宙線飛跡を上下別々に復元し、その差分から実験データでの飛跡の精度を評価してシミュレーションを補正する。 最後に、較正した実験データを解析する。まずは対照データとして時間依存CP非対称度のない荷電B中間子の崩壊を解析し、実験データでも解析手法を検証する。その後、実験結果を隠した状態で統計的・系統的不確かさの評価を行い、解析手法の最終確認を行う。全ての問題を解決したのちに実験結果を確認し、素粒子標準模型を超える仮説を検証する。
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