Belle II実験でB中間子の輻射崩壊における時間依存CP非対称度を世界最高精度で測定した。結果は素粒子標準模型とは矛盾せず、標準模型を超える模型に新しい制限を加えた。以下に主な研究項目について報告する。 (解析ソフトウェアの開発)これまでの研究で構築したモデルを用いて、B中間子対の崩壊時間差分布に時間依存CP非対称度パラメータをフィットするソフトウェアを開発した。その検証のため、色々な時間依存CP非対称度パラメータでシミュレーションを行うソフトウェアも開発し、解析結果と入力との一致を確認した。 (シミュレーションと実験データとの較正)実験データの適切な解析のために、シミュレーションとのズレを較正した。①電磁カロリメータ内での光子のエネルギー漏れのシミュレーションは実験データとズレがある。特に、信号事象の輻射光子のように高エネルギーを持つものについては較正手法も研究されていなかった。そこで、輻射光子以外に光子を含まない荷電B中間子の輻射崩壊を再構成し、そのエネルギーと不変質量を用いて較正係数を算出した。②粒子飛跡中の誤ったヒット信号に由来する崩壊点分解能の悪化は崩壊点フィットのカイ2乗への依存性でモデル化した。この誤ったヒット信号の混入率は、加速器ビーム由来の背景事象ヒット信号数などに依存し、シミュレーションと実験データにズレがある。この較正のため、ビーム衝突実験中にデータ取得した宇宙線を上下別々に再構成し、その比較から実験データでの飛跡再構成精度を測定した。そして、宇宙線シミュレーションとの比較から較正係数を算出した。 (不確かさの評価)解析結果は統計的なばらつきに加え、分布のモデル化など解析中の様々な仮定によってもズレが生じうる。各モデルのパラメータなどをその不確かさに基づいて変化させた場合にどれだけ結果が変化するかを調査し、系統的な不確かさを見積もった。
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