研究課題/領域番号 |
20J21197
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松岡 慶太郎 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | アスタチン-211 / セラノスティクス / ヨードニウムイリド |
研究実績の概要 |
アリールヨードニウムイリドを用いた求核的アスタチン-211(211At)標識反応には、補助基の構造が反応性に大きく寄与すると考えられていた。そこで、電子的・立体的に異なる補助基を持つアリールヨードニウムイリドを用いて211At標識反応を行ったところ、スピロシクロペンチル構造を有するアリールヨードニウムイリドを用いた際に、良好な放射化学収率(RCY)で目的の211At標識体を得ることができた。これは量子化学計算の結果とも良く一致していた。 211Atを用いる実験回数には限りがあることから、これ以上の最適化の検討を行うよりも、基質適用範囲の探索および固相反応への応用研究を進めるほうが重要であると判断した。そこで、十分な反応性を示したスピロシクロペンチル構造が最適な補助基であると判断し、基質適用範囲の探索を行った。求核置換反応において反応性の乏しい電子豊富芳香環を有する基質に対して、良好な放射化学収率で問題なく211At標識体を得ることができた。また電子不足な芳香環を持つ基質に対しては、これまでで最高の99.5%RCYで目的の211At標識体を得ることに成功した。最適化した211At標識条件は、フェニルアラニン誘導体やフィブラート類縁体といった医薬品に含まれるような構造や、キノリン環やベンゾチオフェン環のような複素環を有する基質に対して広く適用可能であることがわかった。このことは本標識手法が、実際の放射性薬剤の合成に適用可能であることを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリールヨードニウムイリドを用いた求核的アスタチン-211(211At)標識反応の開発において、補助基の構造が反応性に大きく寄与するという仮説のもと検討を行った結果、想定した通りに高収率で211At標識化が進行する補助基を見出すことに成功した。本来ならば、量子化学計算を用いて反応性の高い補助基を立案し、実際に標識反応へ適用するワークフローを繰り返すことで最適化を行う予定であった。しかし、211Atを用いる実験回数に制限があるため、これ以上の最適化検討よりも基質適用範囲の調査を優先した。その結果、高い基質一般性を示すことができ、本標識手法が実際の放射性薬剤の合成に応用可能である可能性を見出した。限られた実験回数のなかで臨機応変に方針を変更し、研究を進展することができた点は、高く評価している。
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今後の研究の推進方策 |
固相担持ヨードニウムイリドを用いて18Fおよび211At標識化を検討する。初めに、先行研究で知見のある18F標識反応を用いて、固相担持ヨードニウムイリドの反応性を精査する。固相担持ヨードニウムイリドの反応性は、補助基の構造だけでなく、樹脂の性質にも依存すると考えている。架橋鎖やリンカーの長さ、疎水性、親水性の異なる樹脂を用いてそれらの影響を精査し、高収率での標識化を目指す。固相18F標識反応の検討で得られた知見をもとに、固相211At標識化においても高収率での標識化を目指す。 標識反応の検討と並行して、固相担持ヨードニウムイリドの安定性を調査する。固相樹脂に担持したことでヨードニウムイリドの安定性が向上しているかどうか、実際に室温で長期保存を行い、経過日数ごとの分解率を算出することで検証する。
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