研究実績の概要 |
研究課題の目的化合物の一つとして設定していた単原子ケイ素錯体(シリロン)の合成に成功した。本シリロンは溶液中と固体中で異なる構造と光学特性を示し、その二つの状態間で可逆的に変換できることを見出した。理論計算からこの分子スイッチは、配位子の嵩高さとアミノ基の電子的効果の絶妙なバランスによってもたらされている可能性が示唆された。以上の研究成果は、J. Am. Chem. Soc., 2021, 143, 14332-14341にて報告した。また、本シリロンを用いたケイ素転位反応の基質適用範囲について調査した。種々のエタン-1,2-ジイミンに対しては高選択的・高収率でケイ素転位反応が進行し、目的のジアミノシリレンが得られたものの、その他の基質に対しては目的のケイ素転位反応は進行しなかった。また、本シリロンとモノヒドロボラン、或いはモノハロボランとの反応を検討した結果、種々の高度にツイストしたケイ素―ケイ素二重結合化学種(1-アミノ-2-ボリルジシレン)に簡便に誘導できることを見出した。理論計算から、アミノ基とボリル基のプッシュプル効果によってケイ素―ケイ素二重結合が高度に分極することで、二重結合周りがツイストしやすくなっていることを明らかにした。また本ジシレンは、分子内1,3-ヒドリド・クロリド転位反応が可逆的に進行することを発見した。本転位反応は、これまでのジシレンでは見られなかったものであり、高度にツイスト・分極したジシレンならではの特徴といえる。
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