我々の睡眠は、レム(rapid eye movement: REM)睡眠とノンレム(non-REM)睡眠にわけられる。このうちレム睡眠は、高次な脳構造をもつ動物に固有の現象であり、鮮明な夢を生じる睡眠段階として知られる。しかし、その生理的作用についてはほとんどわかっていない。本研究では、レム睡眠の生理的作用を解明するための端緒としてうつ病に着目した。具体的には、①所属研究室にて開発されたレム睡眠量の操作が可能なマウスを用いて、人為的レム睡眠操作がストレス曝露下のマウスの行動にもたらす影響について検討するとともに、②人為的レム睡眠操作が細胞レベル・分子レベルでの変化をもたらすかについても解析を試みた。採用者は、前年度までに、レム睡眠増加群では、対照群と比べ、ストレス誘発性の行動表現型が異なることを明らかにした。また、ストレス誘発性の行動表現型が異なる背景には、レム睡眠増加の期間とタイミングが重要であり、さらに、レム睡眠増加の影響が記憶学習能力への影響のみでは説明しにくいことを支持するデータも得た。当該年度は、人為的レム睡眠増加がどのようにして行動表現型の違いを生み出したかを解き明かすため、レム睡眠とストレス誘発性の行動変容とをつなぐ神経基盤の解明へ迫った。具体的には、レム睡眠中に活動が高まることが知られている脳部位に対し、光遺伝学的アプローチとリアルタイム睡眠判定を合わせた手法を用いてレム睡眠特異的に介入した。現在までに、特定のタイプのニューロンへの介入により、一部の表現型に対して効果があることを示唆するデータが得られている。したがって、本研究課題の目標を一定の水準で達成したものと考えられる。
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