研究実績の概要 |
本研究では一般化学物質ブロモベンゼン類に着目し、簡易生理学的薬物動態(PBPK)モデリング手法およびヒト肝細胞移植マウスを活用し、一般化学物質リスク評価のための動物臓器内濃度を予測することを目的とした。 ヒト肝細胞移植マウスにブロモベンゼンおよび1,4-ジブロモベンゼンを経口投与した際の血漿試料を分離分析し血漿中濃度を測定した。ブロモベンゼンはヒト肝細胞移植マウス血漿中で速やかに代謝される一方、1,4-ジブロモベンゼンは投与24時間後もヒト肝細胞移植マウス血漿中の消失が少ないことが認められ、臭素置換基の差異により体内動態が異なることが示唆された。これら異なる実測血漿中濃度を基に動物PBPKモデル用パラメータ値を算出した。仮想投与による両化学物質の肝臓中予測濃度推移は血漿中予測濃度推移と比較して約10倍高値を示した。これらの肝臓中予測濃度を検証するために、両化学物質投与2時間後のヒト肝細胞移植マウスの肝臓を摘出し、両化学物質の肝臓中濃度を実測した。両化学物質投与後のヒト肝細胞移植マウスの肝臓中実測濃度は、動物PBPKモデルを用いて予測した肝臓中濃度とおおむね一致した。血中濃度推移を基にした動物PBPKモデルは、ヒト肝細胞移植マウスの肝臓中濃度を再現することが可能であることが示唆された。ブロモベンゼン投与後のヒト肝細胞移植マウス血中のヒトアルブミンmRNA濃度は高値であった一方、1,4-ジブロモベンゼン投与後のヒトアルブミンmRNA濃度は低値であった。ブロモベンゼンはパラ位置換基がなく、エポキシ体生成による肝臓毒性の可能性が高いことが推察された。 以上、簡易PBPKモデリング手法およびヒト肝細胞移植マウスを活用した本研究の成果は、一般化学物質の血中濃度だけでなく臓器内濃度を予測することが可能であり、ヒト体内動態を考慮した肝臓毒性リスク評価の重要な基盤情報となることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
肝臓または腎臓毒性が懸念されるアニリンおよび置換基の異なる2,3-,2,4-,2,5-,2,6-,3,4-および3,5-ジメチルアニリン等に着目する。これらのアニリンおよびアニリン誘導体を用いて、ラットおよびヒト肝移植マウス等の実験動物への単回経口投与実験を行う。各動物の血漿試料を採取し、血漿中化学物質濃度をHPLCを用いて分離分析を行う。得られた実測血漿中濃度推移および一般化学物質の物性値を基に、動物PKパラメータ値を算出する。簡易生理学的薬物動態(PBPK)モデルを活用し、アニリン誘導体の血中濃度の予測値を出力し、実測値との比較検討を行う。 動物およびヒト肝ミクロゾーム等を酵素源としたアニリン誘導体のin vitro代謝消失速度を算出し、代謝速度の種差を調査する。これら動物とヒトとの代謝消失速度の種差および体重の種差を考慮し、肝臓の違いを考慮したヒトPKパラメータ値を外挿する。外挿したヒトPKパラメータ値および簡易PBPKモデルを活用し、アニリン誘導体の仮想投与によるヒト血中、肝臓中および腎臓中濃度推移を出力する。アニリン誘導体のヒトPBPKモデルを活用し、ヒトの血漿中もしくは尿中バイオモニタリング報告濃度から経口曝露量を逆向きに推定し、耐容一日摂取量等の毒性指標値等と比較することにより、アニリン誘導体の毒性リスク評価を行う。 以上、アニリンを基本骨格とした一般化学物質の置換基および置換基数等が及ぼすヒト体内動態への影響を明らかにする。さらに、昨年度実施したブロモベンゼン等の一般化学物質に関する研究成果と考え合わせ、ベンゼン環を母核構造とする一般化学物質の置換基の質的量的差異が及ぼすヒト体内動態への影響や関連性を明らかにする。さらに、ヒト肝細胞移植マウス血漿中のヒトアルブミンmRNAを肝障害指標として一部実測し、血漿中化学物質濃度との関連性を評価する。
|