研究実績の概要 |
本研究では簡易生理学的薬物動態 (PBPK) モデルを活用し、血液、肝臓および腎臓毒性が報告されるアニリン誘導体の動物経口曝露量と生体内濃度を双方向に予測し、それらの血液毒性との関係を調査することを目的とした。 2,6-ジメチルアニリンおよび 3,5-ジメチルアニリンを含む 5 種アニリン誘導体をラットに経口投与 (25 mg/kg) した際の実測血漿中濃度を分析した。これらを基に、主要動態パラメータ値 (ka ,V1 およびCLh,int) をフィッティング計算により算出した。これら決定した入力パラメータを利用し、消化管吸収 (ka)、全身循環分布容積 (V1)、肝代謝消失 (CLh,int) および腎排泄 (CLr) からなる簡易PBPKモデルを構築し、アニリン誘導体のラット生体内濃度を簡便に予測した。 2,6-ジメチルアニリン未変化体としての血漿中残存濃度は多い一方で、3,5-ジメチルアニリン未変化体としての血漿中残存濃度は少なく、後者では一部代謝物の生成が認められた。ラット PBPK モデルより出力した両誘導体の血漿中仮想投与曲線は、各実測血漿中濃度と一致した。ラット PBPK モデルより出力した 5 種アニリン誘導体未変化体の残存血中濃度時間面積と報告された血液 LOEL 値との間には正の相関関係が認められた。 以上、アミノ基側へのメチル置換基の位置の変化により活性化代謝物への生成速度が低下し、活性化代謝抑制による血液毒性発現が低下する可能性が推察された。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度実施した置換基の位置が異なる 5 種アニリン誘導体をラットに経口投与した研究結果より、ラット生体内では 2,4-ジメチルアニリンおよび 2,6-ジメチルアニリンの血中代謝消失速度に差異が生じることが示唆された。そこで、血液、肝臓および腎臓毒性が懸念されるアニリン誘導体のうち、2,4-ジメチルアニリンおよび 2,6-ジメチルアニリンに着目する。これらアニリン誘導体をヒト型モデル動物である免疫不全マウスにヒト肝細胞を移植したヒト肝キメラマウスに単回経口投与実験を行う。ヒト肝キメラマウスの血漿、肝臓、腎臓および尿糞試料を採取し、各生体試料中の化学物質濃度を HPLC 等を用いて分離分析を行う。得られた実測血漿中の化学物質濃度を基に、動物の薬物動態パラメータ値を算出する。これらの薬物動態パラメータ値を基に、簡易生理学的薬物動態 (PBPK) モデルを用いて、ヒト肝キメラマウスの血漿中仮想投与曲線を出力し、実測血漿中化学物質濃度と比較検討を行う。同様に、各アニリン誘導体の肝臓中、腎臓中および尿中仮想投与曲線を出力し、ヒト肝キメラマウスの各生体試料中の実測値と比較検討を行う。同時に、ヒト肝キメラマウス血漿中のヒトアルブミン mRNA を肝傷害指標として一部実測し、血漿中化学物質濃度および血液毒性との関連性を評価する。 以上のように、アニリン誘導体を基に、置換基の位置や数の差異が及ぼすヒト生体内動態やリスクへの影響を明らかにする。さらに、これまで注目してきたベンゼン環構造を母核とした多様な化学物質を横並びにし、簡易 PBPK モデルを用いて、ヒト経口曝露量および生体内濃度を双方向に予測し、ヒト体内動態を考慮した化学物質のリスク評価手法の確立を目指す。
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