研究課題
近年、育種の効率化に寄与する手法としてゲノミック選抜 (GS) が注目されており、実際の育種現場でも応用されはじめている。しかし、従来のGSでは強い選抜をかけることにより、集団の遺伝的多様性が急激に減少し、短期的には有効であるものの、中・長期的には遺伝的改良が頭打ちになることが知られている。こうした問題を解決するため、長期的に有利な選抜指標がいくつか提案されている。しかし、これらは必ずしも遺伝的改良の最大化を考慮するものではなかった。そこで本研究では、育種計画をシミュレートするシステムを実装し、「中・長期的な」戦略(5~10世代)において、育種シミュレーションの繰返しにより既存の選抜指標を準最適化し、育種計画を効率化することを目的として、シミュレーション研究を行った。まず、開発したシステムの有用性の確認のため、既存の選抜指標であるBV(短期的指標)・WBV(長期的指標)の2つを用いたGSの結果比較を行なった。10世代目を最終世代とした育種計画を各戦略に対して100回ずつ行なったところ、長期的指標であるWBVを用いた育種では、BVを用いた場合より、遺伝的改良度が大きく向上しており、先行研究と対応する結果を示せた。続いて、数世代後まで育種をシミュレートし、数世代後の遺伝的改良度を最大化する形で、既存の選抜指標を最適化する手法を実装した。具体的には、既存の選抜指標を選抜だけでなく、「各交配親に割り当てる次世代個体数」の決定に応用し、さらにどの選抜指標をどれだけ重要視するか、ということについて最適化を行った。結果として、真のマーカー効果を用いて選抜指標を計算した際には、最適化しない、すなわち次世代個体数を等しく割り当てる場合と比較して、最適化を行うことで、BV・WBVのいずれにおいても遺伝的改良度を向上させることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の当初の計画では、1年目終了の時点で、既存の選抜指標の最適化に基づく育種計画の効率化まで行う予定であった。この際、複数形質に対する複数の選抜指標の、次世代個体の割り当てへの応用を考えることで、複数形質をターゲットとした育種計画の最適化についても実装を行う予定であった。実際に初年度に行なった研究としては、既存の選抜指標の最適化を実装し、特に真のマーカー効果を用いて選抜指標の計算を行った時には、育種の効率化が実現できることを示すことができた。また、複数形質をターゲットとした育種計画の最適化についても、計算時間の都合上、まだ結果を得るに至っていないものの、実装そのものに関してはすでに終了している。一方で、実際の育種を想定した、推定したマーカー効果に基づく既存指標のアップグレードには失敗した。従って、現時点では、同手法は実用ベースには移されておらず、今後はより実際の育種を意識した研究を行う必要があると考えられる。以上のことから、総合的に「2: おおむね順調に進展している」と判断した。
上述の通り、現段階では、推定されたマーカー効果の精度の問題により、推定したマーカー効果に基づく既存指標のアップグレードには成功していない。そこで、マーカー効果の推定制度が与える影響を詳細に調べつつ、推定されたマーカー効果を用いた際の最適化の精度の向上に努めることとする。また、現在は次世代個体の割り当ての最適化に、選抜時と同一の選抜指標のみを用いていたが、これを複数の指標の組み合わせ、あるいは後代集団の遺伝分散を考慮した最適化にまで拡張する。さらに、複数形質をターゲットとした育種計画の最適化についても、順次行っていく予定である。また、現在最適化にかかる計算時間がネックとなっているため、より収束の速い、局所的な最適化手法の応用についての検討も行う。実際の育種においては各世代でゲノム情報と表現型情報がアップデートされるため、計算時間に関する問題が解決されれば、最終的には、データのアップデートに伴って最適化を毎世代行い直せ、逐次的な意思決定が行えるという仮定の下で、育種計画の最適化のさらなる有効性についてシミュレーション研究を行っていく予定である。
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PLOS ONE
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