研究実績の概要 |
電子相関効果の強い領域におけるディラック電子の振舞いを明らかにするために、強相関ディラック半金属であるペロブスカイトCaIrO3を対象として研究を行った。本年度は、特に強相関ディラック電子の量子極限における振舞いに着目した。単結晶CaIrO3を用いて、磁場を結晶軸のa軸とc軸にかけた際の縦磁気抵抗(B//I)を測定した。B//aの配置においてディラック電子は6 T程度で量子極限に到達し、10 T以上において抵抗は急激に増大し、18 Tピークを取る巨大な磁気抵抗を示した。この巨大磁気抵抗がディラック電子の量子極限における密度波の形成と関連している可能性については、本年度出版された論文[R. Yamada, npj Quantum Mater. (2022)]にまとめた。 一方で、B//cの配置では、ディラック電子はより低磁場の1 T付近で量子極限に到達し、磁気抵抗は6 T付近でピーク構造を示した。磁気抵抗比の大きさはa軸の場合と比較して一桁程度小さな値となっており、B//cの量子極限では密度波の形成が強く抑制される可能性が示唆される。さらに、理化学研究所との共同研究により、CaIrO3のラインノード近傍のバンド構造のランダウ準位の数値計算を行った。その結果、量子極限における磁気抵抗の異方的な振舞いが、量子極限における電荷密度波のモデルを用いて定性的に説明できることがわかった。 以上の研究により、強相関領域におけるディラック電子は磁場による閉じ込め効果によって電荷/スピン密度波を引き起こす可能性が明らかになった。本研究で見出されたディラック電子による秩序相の形成は、電子相関効果により新奇トポロジカル相が生じる可能性を示唆しており、今後の本分野の研究の発展に寄与すると考えられる。
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