今年度は研究計画の初期において進めていた真骨魚類の胸鰭骨格における形態比較の結果をまとめた論文を出版した。また、前年度の(2)Shh・Hox遺伝子の活性と機能に焦点を当て、ゼブラフィッシュにおける変異体の作製を行い、その対鰭に対する影響を観察した。まず、Shhを含むHedgehogシグナルを抑制している遺伝子の機能をCRISPR-Cas9を用いて欠損したところ、2対の対鰭に対してそれぞれ担鰭骨数の増加が観察された。この変異体における胸鰭の発生過程の観察を行ったところ、前後軸に沿った中央領域において担鰭骨数が特異的に増加していることが明らかになった。また、この遺伝子の欠損による影響は対鰭骨格にとどまらず、正中鰭、特に尾鰭において担鰭骨数の領域特異的な増加を促した。以上の結果から、真骨魚類の対鰭においても他の脊椎動物の有対付属肢と同様に前後軸に沿った骨格の特定化が行われている可能性、およびHedgehogシグナルへの応答能が正中鰭の段階で既に確立されていた可能性が示唆された。また、初めに計画していたチューリングパターンによる形態形成を、Bmp・Wntシグナルにて見出す試みは失敗したが、上記の担鰭骨数の増加を示す胸鰭における分岐状の構造が形成されることから、魚類の軟骨性骨領域において何らかのシグナルがチューリングパターン様のメカニズムを担っている可能性が考えられる。以上の結果と前年度の成果をもとに、現在学術論文を執筆中である。
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