近年、冷却原子系における光会合と呼ばれる実験技術により、量子多体系に人工的に散逸を導入することが可能となった。最終年度はまず、2021年度報告時に投稿中であった、スピン系における散逸が存在する状況での基底状態の臨界現象と、そのユニバーサルな性質を記述する理論を論文として出版した。本研究はPhysical Review B誌に掲載された。 引き続き散逸の存在する強相関量子多体系に着目して研究を行った。特に、内部自由度の存在する一次元強相関量子系に注目し、散逸が存在する状況での基底状態の臨界現象と、そのユニバーサルな性質を記述する理論の構築を行なった。具体的には、共形場理論とベーテ仮説による厳密解の解析からエネルギースペクトルと臨界指数を求め、有限サイズスケーリングを行うことでその性質を明らかにした。その結果、チャージの励起は複素朝永Luttingerパラメーターによって特徴付けられるユニバーサルな性質を持つことを明らかにした。一方で、スピンの励起は散逸による影響を受けず、これは系の持つ対称性から生じる制約によるものであるということも明らかにした。結果はPhysical Review B誌に出版された。 さらに、観測の反作用としての散逸が引き起こす非平衡ダイナミクスの影響の研究も行った。特に、乱れの存在する量子多体系について解析を行い、観測の反作用によって引き起こされる局在と、乱れによって引き起こされる局在の性質が異なることを明らかにした。また、このような観測誘起ダイナミクスはポストセレクションと呼ばれる問題により、実験的観測が難しいものとなっている。本研究では、これを回避する方法も提案しており、冷却原子系における実験的実現も期待されるものとなっている。結果は論文としてまとめ、現在国際誌に投稿し査読中である。
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