本研究は、近代日本における結核の病因をめぐる言説の生成およびその変容を考察するものである。本年度は以下のように研究を進めた。 ①戦時期日本における結核の集団検診について資料収集およびその分析を行った。これによって、戦時期の結核集団検診が国民ひとりひとりの初感染を追跡し、初感染直後の心身への配慮に国民の意識を向かせたこと、「既感染健康者」という人口集団を想定した新たな結核管理が構築されようとしていたことが明らかになった。この成果をまとめた論文「戦時期日本における結核集団検診と「既感染健康者」の生成」が『科学史研究』第61巻第302号に掲載された。 ②戦前期日本における公立結核療養所をめぐる議論について資料調査を行い、公立療養所は防疫と救療とを折衷させるかたちで構想されていたこと、とくに1930年代から結核療養所の予防施設としての実効性が議論されていたこと、それらの議論は結核療養所の「隔離」という機能をどのように解釈するのかという問いとともにあったことが明らかになった。以上の点について、ミニシンポジウム「シン公衆衛生?人間の健康増進を超えて」で報告した。この成果をまとめ『立命館生存学研究』に投稿した論文「近代日本における公立結核療養所と「隔離」の社会的機能の追求:防疫と救療をめぐる議論を中心に」は、査読を経て、次年度に掲載されることが決まっている。 ③戦時期におけるBCG研究と集団接種について、資料収集およびその分析を行った。この内容については、次年度の学会発表で報告する予定である。 ④戦前期日本における結核の発病予防およびその精神衛生とのかかわりについて調査し、Association for Asian Studies 2023 Annual Conferenceで報告した。国際会議への参加によって、科学技術史にかかわる海外の研究者とのネットワークを築くことができた。
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