研究実績の概要 |
(1) ファージディスプレイ法を用いた新規BBB透過環状ペプチドの探索 ヒト脳毛細血管内皮細胞を用いて作製したin vitro BBBモデルに環状ペプチドを提示可能なファージ溶液を添加し, モデルを透過して回収されたファージのDNAシークエンシング解析をおこなった. その結果, 複数のBBB透過候補環状ペプチド配列の探索に成功した. 得られた候補ペプチド配列を固相合成法にて合成し, 現在機能解析をおこなっている. (2) 既存のBBB透過ペプチドの比較検討を基盤とした脳指向性DDSキャリアの開発 (1) で探索される候補ペプチドから優れたペプチドを選定し, 速やかにDDSへと応用していくための開発基盤の構築を目指して, 既存のBBB透過ペプチド8種類のin vitro・in vivoでの比較検討をおこなった. その結果, 臨床開発が最も進んでいるペプチドの1つであるAngiopep-2 (Angiochem Inc., NCT03613181) やその他のペプチドよりも優れた脳集積性を示すペプチドXを見いだした. 脳組織中のペプチドXのBBB透過性を評価するために, 組織透明化試薬Seebest PPを用いた多色深部観察法を構築し, 脳血管外にペプチドXが局在していることを明らかにした. さらに脳指向性DDSキャリアの開発に向けて, これまで開発してきた効率的なリガンド修飾技術であるHFQ脂質にペプチドXを適用したペプチドX-HFQ脂質を新たに設計・合成した. ペプチドX-HFQ脂質を修飾したPEGリポソームは, ヒト脳毛細血管内皮細胞に対して高い細胞結合性および透過性を示した. 正常マウスでの脳集積性評価ではPEGリポソームと比較して高い集積性を示し, 多色深部観察法による脳内分布解析の結果から脳血管内皮細胞および脳血管外に分布する可能性を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) ファージディスプレイ法を用いた新規BBB透過環状ペプチドの探索に関しては, 計画より遅れているものの現在候補ペプチドの機能性を解析中である. (2) 既存のBBB透過ペプチドの比較検討を基盤とした脳指向性DDSキャリアの開発に関しては, 既存のBBB透過ペプチドの比較検討から高効率に脳内へ移行するペプチドXの探索やペプチドXをHFQ脂質に適用することで優れた脳指向性を有するPEGリポソームの開発に成功した. さらにはBBB透過ペプチドや脳指向性PEGリポソームの脳内分布評価法として新規組織透明化試薬Seebest PPを用いた多色深部観察法により脳血管との位置関係を解析できたことは期待以上の進展であった. 以上, 本年度計画していた研究内容は概ね遂行することができたものと考えられる.
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