持久性運動は骨格筋のエネルギー代謝を亢進し、糖尿病をはじめとする代謝性疾患の予防や改善に重要であると考えられている。近年、ヒスタミンが血管内皮細胞を介した運動適応やエネルギー代謝機能の向上に寄与していることが明らかとなった。ヒスタミンはマスト細胞から産生される生理活性物質であるが、エネルギー代謝機能の向上にマスト細胞が関与しているかどうかは明らかでない。昨年度は運動により、マウスの骨格筋に存在するマスト細胞が脱顆粒する可能性が明らかとなった。そこで本年度は、マスト細胞の脱顆粒を阻害するクロモリンを用いて、運動によるマスト細胞の役割の解明を目指した。マスト細胞が持久力に関与しているかどうかを明らかにするために、マウスにクロモリンを投与し、疲労困憊運動を負荷した。運動継続時間を指標として持久力を評価したところ、クロモリン投与群と対照群との差は認められなかった。加えて、骨格筋における、エネルギー代謝に関与する遺伝子であるglucose transporter 4 (GLUT4)の発現を測定したところ、運動による影響は認められなかった。また、炎症やエネルギー代謝に関与する遺伝子であるIL-6の発現を測定したところ、運動による遺伝子発現の亢進は認められたが、クロモリン投与群と対照群との差は認められなかった。さらに、マスト細胞が産生細胞の一つであるヒスタミンの血中濃度は運動による変動が認められなかった。以上のことから、マスト細胞の運動時のエネルギー代謝への関与は大きくない可能性が考えられるが、今後はクロモリンを用いた実験系の妥当性も含め検討を行う必要がある。
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