研究課題/領域番号 |
20J21363
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢ヶ崎 怜 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | 消化管 / 蠕動運動 / カハール介在細胞 / c-Kit / in vitro |
研究実績の概要 |
消化管は食道から肛門までつながる1本の管構造であり、消化・吸収・排泄という複数の機能を果たす。これらの機能を果たすためには、内容物が適切なタイミングで適切な位置に運搬されることが重要であり、それを担うのが蠕動運動である。蠕動運動とは、食道側の消化管が収縮し内容物を後方へ送り出していく動きのことをさす。先行研究から蠕動運動を制御する細胞として平滑筋、腸管神経、カハール介在細胞が知られている。中でもカハール介在細胞はペースメーカー細胞として非常に重要視されてきた。しかしながら、蠕動運動時にカハール介在細胞がどのように同調した平滑筋収縮を示すのか、よくわかっていない。本研究はカハール介在細胞が引き起こす同調した収縮のメカニズムを明らかにすることを目的とし、トリ胚消化管筋肉層の細胞培養法を用いて解析を進めている。 これまでの大きな課題はトリにおいてカハール介在細胞を特定することが可能な抗体がなく、この細胞を識別することが非常に困難であることであった。そこで、本年度は研究室にて新たに抗体を自作し、条件検討及び有用性の検証を進めてきた。有用性の検証は現在も進行中であるが、おおむね有用と考えている。 また、さらにカハール介在細胞優位な培養を実現するため、Stem cell Factor(SCF)のクローニングを行った。SCFとはカハール介在細胞のマーカーであるチロシンキナーゼレセプターc-Kitのリガンドである。これまでの研究からカハール介在細胞の分化にはc-Kitの活性化が必要であることが知られている。そこで、今回クローニングしたSCFを細胞に導入することでc-Kitを活性化し、カハール介在細胞への分化を促進できると考えている。 次年度は本年度に作製したツールを用いて、蠕動運動時のメカニズムを明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は解析を進めるために必要な二つのツール作製に取り組んだ。 一つ目は本研究室にて自作した抗c-Kit抗体の条件検討及び有用性の検証である。c-Kitとはカハール介在細胞の主なマーカーである、これまで、研究に使用しているトリに対して有用な抗c-Kit抗体がなく、カハール介在細胞の特定が課題となっていた。条件検討の結果、固定方法は酢酸エタノールが適していること、また透過処理が必須であることが分かった。有用性の検証は現在も継続しているが、消化管での染色パターンがこれまで他の生物種で報告されてきたパターンとも一致するため、おおむね有用と考えている。 二つ目はStem Cell Factor(SCF)コンストラクトの作製である。SCFとはc-Kitのリガンドであり、SCFがc-Kitと結合し活性化させることで、カハール介在細胞への分化が促進されることが分かっている。そこでSCFコンストラクトを細胞へ導入することでカハール介在細胞優位な培養方法を確立しようと考えた。SCFには分泌型と膜結合型という二種類のスプライシングバリアントが存在することが知られており、今回その両方を作製した。しかし、分泌型の場合は大腸菌に与える影響が大きく変異が入りやすいという問題が起こり、一時難航した。現在は使用する大腸菌を高コピーから低コピーに変更することで改善している。 以上のことから、蠕動運動解析に必要なツールの準備が進んでおり、今後は円滑に解析を行うことができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず昨年度から継続してきた、自作c-Kit抗体の有用性の検証を完了させる。この抗体の有用性が確かめられれば、カハール介在細胞を特定することが可能となる。主に、消化管及びその他のc-Kit発現組織(表皮や生殖細胞など)のin situHybridizationと比較し検証を行っていく。 次に、消化管筋肉層の培養細胞において、同調した収縮を示す細胞集団が構築されるまでの各ステップを明らかにしていく。これまでの研究から細胞集団を構築するまでに、複数のステップが確認されており、細胞が突起を伸ばし互いに接触する様子も観察されている。また、免疫化学細胞染色から最終的に細胞集団内側にc-Kit+細胞、外側に成熟平滑筋マーカーであるdesmin+細胞が配置されることが明らかになった。しかし、どのように配置されていくのかはまだ分かっていない。そこで、まずは抗c-Kit抗体、抗α-SMA抗体、抗desmin抗体を用いて、各ステップで関与している細胞を明らかにする。加えて、内側と外側の細胞を分離している方法を明らかにするため、カドヘリンに着目して解析を行う。カドヘリンでなかった場合は、SCF/c-Kitシグナリングの可能性を検討する。続いて、培養開始前に遺伝子を導入し細胞膜やアクチン等を可視化した細胞のタイムラプスイメージングを行う。これにより細胞集団構築時の細胞の動きを明らかにできると考えている。 得られた知見をもとに、生体への直接のアプローチを試みる。具体的には、c-KitのリガンドであるSCFを発生初期に過剰発現させてc-Kitを活性化させ、カハール介在細胞への分化を誘導させる。これにより生体内でのカハール介在細胞の配置が変化すると考えられる。そこで消化管の動きを解析し、カハール介在細胞の配置の変化が消化管収縮にどのような影響を与えるのかを明らかにする。
|