研究課題/領域番号 |
20J21369
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 広島大学, 医系科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 経頭蓋静磁場刺激 / 非侵襲的脳刺激 / 運動前野 / 視覚運動 / 反応時間 |
研究実績の概要 |
脳卒中後,非侵襲的な脳刺激法を用いて非損傷側半球の過剰な活動を抑制し,麻痺側肢を集中的に使用するリハビリテーション手法の有効性が検証されているが,麻痺側肢の随意運動が困難な対象者にはこの方法は適用されない.本研究では,運動肢と同側一次運動野の興奮性は,どのような運動課題の遂行時に大きく増大するのかを明らかにし,重度の片麻痺症状を呈する脳卒中患者の機能回復に有効な非麻痺側上肢で行うリハビリテーションを開発するための神経生理学的基礎データを提供することを目的とする. 静磁場刺激は,頭皮上に強力なネオジム磁石を設置することで大脳皮質の興奮性を低下させる新たな非侵襲的脳刺激ツールとして注目されているが,この刺激がヒトの中枢神経系および認知運動機能に及ぼす影響については不明な点が多い.上記の目的に加え,これらの問題解決に取り組み,静磁場刺激のリハビリテーション応用の有効性を検証することを目的とする. 令和3年度は,視覚刺激反応課題における運動前野の機能について検証し,その研究成果を国内学会で発表した.この研究では,頭皮上に強力なネオジム磁石を設置することで大脳皮質の興奮性を低下させる経頭蓋静磁場刺激(transcranial static magnetic field stimulation: tSMS)を片側または両側PMへ20分間行い,視覚刺激反応課題(単純反応課題および選択反応課題)のパフォーマンスが低下するか否かを検証した.その結果,片側および両側PMへのtSMS前後で視覚刺激反応課題のパフォーマンスに変化が認められなかった.PMを抑制するためのtSMSの刺激強度が不十分であったことや,抑制効果を評価する指標が適切ではなかった可能性があるため,今後は,tSMSの刺激強度や介入効果の評価方法を工夫し,非侵襲的脳刺激ツールとしてのtSMSの可能性をさらに探索する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経頭蓋静磁場刺激がヒトの認知運動機能に及ぼす影響について研究した.その結果,片側および両側運動前野への経頭蓋静磁場刺激前後で視覚刺激反応課題のパフォーマンスに変化が認められなかった.この研究から,運動前野の機能を抑制するための静磁場の刺激強度が不十分であったことや,抑制効果を評価する指標が適切ではなかったことなど,今後の研究課題が生じた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に実施した研究では,運動前野の興奮性や他の脳領域との神経連絡を直接評価していない問題点がある.そのため,次年度は,運動前野と一次運動野への二連発経頭蓋磁気刺激を行い,運動前野から一次運動野への抑制性入力を評価する.また,64チャネル脳波計を用いて運動前野を含む運動関連領野から記録した脳波をα,β,γの各周波数帯域地に分け,それぞれの脳律動における同調性を解析する.静磁場刺激中および刺激後において,これらの指標が変化するか否かを詳細に検討する予定である. これに加えて,静磁場刺激の中枢神経系に対する効果にはどのような分子生物学的神経機序が関与しているのかを明らかにする研究も同時に行う.神経生理学教室の教授の指導の下,パッチクランプ法を用いて神経細胞から活動電位およびシナプス後電流を記録し,それらの変化を静磁場刺激前後で比較検討する.さらに,これらの神経活動の変化を引き起こすイオンチャネルを特定するために,チャネル阻害薬を用いて神経細胞の神経活動を選択的に操作した検証を行う.以上より,中枢神経に対する静磁場刺激の抑制効果の神経機序を解明する.
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