研究実績の概要 |
歯周病における歯の喪失は、歯周病原細菌の感染により慢性炎症がもたらす歯槽骨の破壊が原因となる。慢性歯周炎罹患者の歯周ポケットに集積する約9割の免疫細胞は好中球であり、破骨細胞の分化誘導は炎症など細胞外環境の刺激により影響を受ける。本研究では、「歯周病原細菌の感染に際して好中球が産生する好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)による破骨細胞の分化・活性化機構」の解明を目的とする。 本年度は、前年度に明らかにしたNETsの破骨細胞分化抑制機構におけるNET-DNAの役割とその作用メカニズムについて研究を進めた。野生型マウス好中球をcalcium ionophore A23187で刺激して産生されたNETs(CaI-NETs)にDNase I処理を行い、NET-DNA構造を分解した。DNase I処理CaI-NETsをRANKLとともに野生型マウス骨髄由来マクロファージへの刺激を行ったところ、TRAP染色においてNETsによる破骨細胞融合阻害が解除された。また、ピット形成能についても、骨吸収活性の低下が解除された。さらに破骨細胞の分化過程に関わる分子群について解析した結果、NETs刺激によるNFATc1, Cathepsin KとDC-STAMPのmRNA発現の低下がDNase I処理によって解除された。 次に、CaI-NETsは破骨前駆細胞であるマクロファージのファゴサイトーシスによって取り込まれることが明らかとなった。マクロファージのファゴサイトーシスを阻害したところ、CaI-NETsによる破骨前駆細胞融合阻害および破骨細胞の骨吸収活性の低下が解除された。 これらの結果から、CaI-NETsに含まれるDNA構造が破骨前駆細胞内に取り込まれることで初めて、破骨細胞分化を抑制することが明らかとなった。
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