本研究では細胞組織の代謝機能を評価するための電気化学測定システムの開発、ならびに電気化学反応を利用した組織形成の誘導手法を開発することで、測定・評価をオンチップで行えるOrgan-on-a-chipの開発を目指した。前年度は腫瘍組織モデルや創薬開発のための生体試料として応用研究が推進されている三次元培養組織(スフェロイド)を対象として、呼吸活性を測定する電気化学デバイス/電気化学発光システムを開発した。これを踏まえ本年度はさらに生体組織の中での血管機能に注目して、それを評価するための電気化学測定システムの構築を行った。計画時はがん細胞の乳酸産生を測定する予定でいたが、Organ-on-a-chipの構築という目的を鑑み、より組織間・細胞間の相互作用を解析すべく、血管機能の方に焦点を当てた評価系の構築を行った。 1. 血管内皮細胞のシート上にがん細胞スフェロイドを培養する共培養系を構築し、多点電極アレイデバイスを用いてがん細胞の伸展に伴う血管内皮細胞の透過性の評価を行った。 2. 血管新生や血管内皮細胞の機能評価において重要な接着状態やチューブ形成を電気化学発光顕微鏡によってイメージングする手法を開発した。 3. 血管機能の恒常性維持における重要なシグナル因子である一酸化窒素を測定する電気化学デバイスを開発した。一酸化窒素に対して特異的な検出を行うため、無機炭素系触媒を修飾したデバイスを作製し、血管内皮細胞からのnMオーダーの一酸化窒素の産生をモニタリングすることに成功した。投稿準備中。 また、本研究では電気化学的な刺激により細胞組織の形成を誘導することも検討項目においていた。細胞そのものへの刺激と組織形成誘導には至らなかったものの、電気化学反応による細胞組織足場形成の誘導と、その中での血管内皮細胞のチューブ様構造形成について確認することができた。
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