研究実績の概要 |
本研究は、ウィリアム・フォークナーの小説を出発点としたアメリカ南部文学における身体表象の分析を通じて、表象において社会と個人とがなす関係性を理論化することを目指すものとして開始されている。3年目にあたる当該年度は、前年度の研究を発展させる形で、James Agee, Walker EvansのLet Us Now Praise Famous Men(1941)の分析を行った。そこでは、大恐慌化のアメリカ南部貧農を取材した写真とテクストとの融合として成立する本作品が、写真でしか実現することのできない「現実」の捉え直しとは対照的な、観察者として「現実」に近づこうとすればするほどその不可能性を突きつけられる作家エイジーの苦悩を描き出す可能性を提起した。それにより、写真というメディア/芸術の様態と、本研究がこれまで対象としてきた小説という様態の交錯する地点において、アメリカ南部社会に対する新たな分析の枠組みを創出する可能性を見ることが可能となった。 上述の作品分析を通して、アメリカ南部社会の経済的あるいは共同体的制約の中に置かれた個人の存在について、メディア横断的な視点から一定の知見を得ることができたことは、本研究が依拠する身体表象をめぐるアプローチをより多角的なものとした。こうした研究成果を踏まえた上で、ウィリアム・フォークナーをはじめカーソン・マッカラーズ、ゾラ・ニール・ハーストンといった他の20世紀南部作家を含む総体的な議論の見通しを得た。
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