研究実績の概要 |
令和2年度に引き続き, 輸送現象測定による可逆不可逆転移の探究を行い, 以下の知見を得た。また可逆状態および不可逆状態における渦糸配置の可視化をめざし, 走査型トンネル分光法による微視的実空間観察を実施した。 令和2年度までの実験結果から, 可逆相内でせん断振幅を減らすと平均渦糸間距離の付近で緩和時間が急激に減少することを見出していた。これは可逆相内に2種類の領域が存在することを示唆する結果であり, 近年コロイド粒子系のシミュレーションで予想されたループリバーシブル相とポイントリバーシブル相を捉えている可能性がある。そこで可逆相における詳細な実験と解析を行った。その結果, ループリバーシブル相およびポイントリバーシブル相における緩和時間はともに同一の臨界振幅に向かってべき発散を示し, また臨界指数も一致することが分かった。これにより2種類の可逆相における臨界現象の観測に初めて成功した。 また可逆不可逆転移はせん断振幅だけではなく粒子密度に対しても引き起こされる可能性に着目し, 密度誘起の可逆不可逆転移の実証も試みた。渦糸系は印加磁場によって渦糸密度を容易に制御できる実験系である。この性質を生かして系統的な実験を行った結果, 渦糸密度を変数とした場合にも, せん断振幅を変数とした場合と同じ可逆不可逆転移の臨界現象を観測した。これにより相転移を駆動するパラメタによらない普遍性を実証した。 これらの結果から本年度は可逆不可逆転移のさらなる普遍性を明らかにすることができた。以上の成果はScientific Reports 誌に掲載され, 国際会議での報告も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は予定通りに輸送現象測定を行い, 可逆相内に2種類の領域が存在することを明らかにした。また, これまで観測されてきたせん断振幅をパラメタとした可逆不可逆転移に加え, 粒子密度をパラメタとした可逆不可逆転移を調べた結果, 両者が同じ臨界現象を示すことを見出した。これにより相転移を駆動するパラメタによらない普遍性を実証した。以上の成果はScientific Reports 誌に掲載され, 国際超伝導シンポジウム(ISS2021)奨励賞にも選ばれた。さらに, 走査型トンネル分光法を用いた交流駆動後の渦糸配置の微視的実空間観察にも取り組み, すでにいくつかの渦糸像が得られている。このように研究は順調に進展しており, 令和4年度もさらなる進展が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き走査型トンネル分光法(STS)による渦糸配置の微視的実空間観察を行い, 可逆不可逆転移に伴う粒子配置変化を明らかにする。周期駆動後に凍結させた渦糸配置のSTS像に対して, 渦糸配置の秩序度合いを(1)格子性と(2)Hyperuniform構造(例. 銀河の分布・鳥類の視細胞の分布)というhidden orderの2つの観点から定量的に評価する。また, 交流駆動によって起こる可逆不可逆転移に加え, 直流駆動によって起こる動的秩序化転移についても新たに輸送現象測定を実施する予定である。
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