研究課題
大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、前例のないミューオン線形加速器を用いたミューオン異常磁気能率(g-2)の精密測定と電気双極子能率(EDM)の高感度探索を推進している。ミューオンの冷却と多段線形加速による低エミッタンスビームを実現することで、ビーム由来の系統誤差の抑制が可能となる。現在、ミューオン加速器の一つであるInterdigital H-mode drift tube linac (IH-DTL)の開発を進めている。加速器でのビームエミッタンス増大の原因の一つが加速電場の歪みである。加速電場歪みは、(1)加速器の製作誤差、 (2)運転時の高周波電力の不安定性などにより生じる。今年度は、上記の2項目を中心に研究し、その成果を学会等で報告した。(1)実機IH-DTLの製作:実機IH-DTLを製作し、製作誤差及び空洞性能を評価した。3次元測定器による測定の結果、製作誤差は要求精度を満たすことを確認した。また、測定した共振周波数は設計値からの誤差が0.01%程度でよく一致した。来年度はミューオン加速要求を満たすための加速電場の検証と電場補正の試験を予定している。(2)輸送ラインの設計:IH-DTLの高周波電力供給に時間的な不安定性があると加速後のビーム形状が変化する。設計からずれたビームを後段加速器に入射するとエミッタンス増大が起きてしまう。上記の影響を調べるために、IH-DTLと後段加速器を繋ぐビーム輸送ラインを設計した。数値計算の結果、後段加速器でのエミッタンス増大が実験要求以下を満たすためには、IH-DTLの運転時の高周波電力は振幅を±0.5% 以下に保持する必要があるという知見が得られた。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、既に開発済みであったIH-DTLプロトタイプに高周波電力を投入する大電力試験の実施を予定していたが、一部装置の準備の遅延や実験施設におけるスケジュールの都合により計画を修正した。そのため今年度は大電力試験のための装置の準備に専念した。来年度初頭での試験開始を目指した入念な準備を行うことができた。またIH-DTLプロトタイプの開発と並行して、IH-DTLの実機製作を行った。製作誤差は要求精度以内であり、測定した共振周波数は設計値を再現することを評価した。この結果は、ミューオン線形加速器としてのIH-DTLの実機製作という一つのマイルストーンを達成できたことを示す。以上の開発を総合して、本研究はおおむね順調に進展していると考えた。
来年度は、IH-DTLプロトタイプの大電力試験を実施する。試験の準備は完了しているので、来年度初頭での迅速な試験が可能である。ミューオン加速に要求される運転条件の実証試験及び大電力運転での安定性試験を実施する。当試験で得られた結果は、学術論文として報告することを目指す。また、今年度製作したIH-DTL実機は測定した共振周波数が設計値を再現することが確認できたが、ビームのエミッタンス増大を抑制しつつミューオンを加速するためには、加速電場の誤差を抑制する必要がある。そこで来年度にはIH-DTL実機の加速電場の測定を実施する。得られた結果を元に、加速電場の誤差が大きいと判明した場合は、加速電場及び共振周波数の補正を適切に行うことで、ミューオン加速要求を満たす条件に調整することを目標とする。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
JPS Conference Proceedings
巻: 33 ページ: 1-6
10.7566/JPSCP.33.011128
Proceedings of IPAC2021
巻: - ページ: 2544-2547
10.18429/JACoW-IPAC2021-WEXB06
https://agenda.hepl.phys.nagoya-u.ac.jp/indico/internalPage.py?pageId=0&confId=1771
https://www.jps.or.jp/activities/awards/gakusei/2022a-student-presentation-award.php?fbclid=IwAR2GtfKUb3GVR7behJnBPMNf68CfmubVMxOmcSgrK4l_ONXSkZrTDB63oAc