研究課題/領域番号 |
20J21460
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大石 紗友美 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | カメムシ / 共生器官 / 形態形成 / 共生細菌 / 腸内細菌 / 内臓筋 / 変態関連遺伝子 / Labial |
研究実績の概要 |
1、盲嚢形成に関わる内臓筋配置の組織学的観察:チャバネアオカメムシ成虫の共生器官は、主管の周りに共生細菌の詰まった盲嚢が4列に配置する特徴的な構造を示す。これまでに、盲嚢は孵化後数日で形成されることがわかっていたが、その詳しい形成機構は不明であった。前年度までの研究により、内臓筋が盲嚢の境界決定に関与する可能性が示唆された。そこで今年度は、春本敏之博士(京都大学・白眉センター)の協力を得て、FIB-SEM法による共生器官を取り囲む内臓筋の観察をおこなった。その結果、盲嚢の境界に位置する内臓筋を高精度に観察することができた。
2、共生器官の形態変化時期決定への変態制御遺伝子の関与:これまでに、本種の共生器官において幼虫から成虫になる過程でダイナミックな形態変化が起こることを明らかにしたが、一連の形態変化の具体的な機構は不明であった。前年度の研究成果より、幼若ホルモン及びエクダイソンが、カメムシ共生器官の形態変化の時期決定に関与することが判明した。今年度は、さまざまな成長段階の共生器官および共生細菌について遺伝子発現解析を実施した。その結果、共生器官で発現する多数の幼虫・成虫特異的な宿主・細菌遺伝子の抽出に成功した。
3、カメムシ腸内で共生細菌の消化吸収を制御するHox遺伝子:Hox遺伝子であるLabialのRNAiをおこなったところ、共生器官の前方にあるM4b部位に共生細菌が蓄積するという表現型を新たに見出した。遺伝子発現解析をおこなったところ、Labialの下流ではさまざまな分解酵素が発現制御を受けていることが明らかになった。また、LabialのRNAiによってカメムシの成長が顕著に阻害される現象を発見した。それらの結果から、LabialがM4bで機能し、共生細菌の消化のための遺伝子発現制御をおこなうことにより、カメムシの成長に必要な栄養獲得に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度計画していた盲嚢形成への内臓筋の関与を確かめることを目的としたアクチン重合阻害剤を用いた実験については、サイトカラシンDおよびラトランキュリンAのインジェクションを試みたが、共生器官以外への影響が強く虫がすぐに死亡したため予想していた結果は得られなかった。しかし、共生器官で発現する幼虫および成虫特異的遺伝子の探索については予定通り進行することができ、幼虫・成虫特異的に発現する宿主遺伝子の抽出に成功し、成虫の共生細菌で特異的に亢進するアミノ酸合成経路も見出した。さらに、本年度は、共生器官前方に位置するM4b部位で特異的に発現するHox遺伝子Labialを発見し、細菌消化へ関与することを明らかにできた。それらの状況を踏まえて、研究はおおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1、盲嚢形成に関わる内臓筋配置の組織学的観察:チャバネアオカメムシ成虫の共生器官は、主管の周りに共生細菌の詰まった盲嚢が4列に配置する特徴的な構造を示す。今までに、盲嚢は孵化後数日で形成されることや、内臓筋が盲嚢の境界決定に関与しうることがわかってきている。今年度はより詳細な内臓筋配置をとらえるために電子顕微鏡観察を実施するとともに、得られたデータを論文として発表する予定である。
2、共生器官の形態変化時期決定への変態制御遺伝子の関与:今までに、本種の共生器官及びその前方部位は、幼虫から成虫になる過程で形態を大きく変化させることが明らかになっている。これまでの研究成果より、幼若ホルモン及びエクダイソンが、カメムシ共生器官の形態変化の時期決定に関与することや、宿主の変態制御遺伝子が共生細菌にも影響を及ぼしていることも明らかになってきた。遺伝子発現解析をおこなった結果、共生器官で発現する多数の幼虫・成虫特異的な宿主・細菌遺伝子の抽出に成功した。現在は、上記の結果について論文を執筆中であり、今年度前半中に投稿を予定している。
3、カメムシの腸内で共生細菌の消化吸収を制御するHox遺伝子:これまでの研究で、Labialが共生器官の前方にあるM4bで機能し、共生細菌の消化のための遺伝子発現制御をおこなうことにより、カメムシの成長に必要な栄養獲得に関与する可能性が示唆された。それらを踏まえて今年度は、Labialによる細菌消化によって得られる栄養素を明らかにすることを目的として、Labial RNAi個体とコントロール個体の体液に含まれるアミノ酸組成をLC-MSを用いて定量する。さらに、Cathepsin以外の下流因子にも注目し、M4bにおけるLabialの機能について包括的に調査する。得られたデータについては、今年度中に論文として投稿することを目標としている。
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