研究課題/領域番号 |
20J21472
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 幸太郎 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 無菌的炎症 / マクロファージ / DAMPs / DJ-1 |
研究実績の概要 |
中枢や末梢における炎症が脳機能に影響を及ぼす分子機構は未解明であり、特に神経細胞の炎症感受性を生み出す分子機構は、ほとんど明らかにされていない。 本研究は、中枢と末梢の炎症病態における炎症感受性の神経回路を同定し、その分子機構を解明することを目的とする。その神経回路の活動を制御して中枢や末梢における炎症病態に対する治療効果を検討する。 炎症感受性の神経回路が同定できれば、炎症病態における判断力や活動意欲の低下が引き起こされる分子機構の解明につながり、炎症による脳機能への影響を変える手法を開発することにで、脳梗塞、癌や感染症患者の生活機能レベルの改善を図る治療法開発につながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳組織抽出液に含まれるDJ-1(PARK7)は脳梗塞において無菌的な炎症を惹起する新規のDAMPであることを発見した。in vitroにおいて、組換えDJ-1タンパク質をBMMに添加すると、濃度依存的に炎症性サイトカインの発現量がmRNAならびにタンパク質レベルで増加した。In vitro NF-kBルシフェラーゼアッセイならびにTLR2およびTLR4欠損マウス由来のBMMへの組換えDJ-1タンパク質添加実験より、DJ-1はTLR2およびTLR4を介してBMMを活性化することが明らかとなった。DJ-1は189アミノ酸残基からなるタンパク質であり、DJ-1の欠損変異体を作製しBMMに添加したところ、DJ-1の160-189残基に非常に強い炎症誘導活性が認められた。160-189残基にはaG-aH helix構造が含まれており、この構造に含まれるアミノ酸配列がBMMのTLR2、TLR4を活性化して炎症性サイトカインの発現を誘導することを発見した。 脳梗塞モデルマウスを用いて、脳梗塞巣におけるDJ-1の発現を検証したところ、脳梗塞の発症6時間から12時間後にかけて神経細胞における細胞内DJ-1の発現が上昇していたが、12時間から24時間後においては細胞内に発現したDJ-1が、神経細胞の虚血壊死に伴って死細胞から細胞外に放出されていた。細胞外に放出されたDJ-1は、脳梗塞内に浸潤したマクロファージと細胞表面上で接触しており、また浸潤免疫細胞を除去したところ炎症が誘導されなかったことから、DJ-1は直接的にマクロファージなどの浸潤免疫細胞を活性化して炎症を惹起することが示唆された。DJ-1欠損マウスを用いて脳梗塞モデルマウスを作製し発症後1日の脳内に浸潤してきた免疫細胞における炎症性サイトカイン産生を定量したところ、DJ-1欠損マウスでは炎症が抑制されていた。DJ-1の抗体投与によって、脳梗塞後の脳組織における炎症性サイトカインの発現誘導が減少し、梗塞体積の縮小や神経保護効果が観察された。
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今後の研究の推進方策 |
DJ-1の詳細な解析を進めると共に、論文出版を目指す
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