研究課題
面分光は天体像を分解して並べ直し分光することによって、2次元の空間情報を保ったまま視野全体を分光する観測手法である。本研究ではTAO6.5m望遠鏡の近赤外線観測装置SWIMS用のイメージスライサー型面分光ユニットSWIMS-IFUの開発を進めている。2021年度はまずSWIMS-IFUの光学素子の開発を完了した。特に役割の異なる二種類の平面ミラー(1枚と26枚)が一つの金属母材に加工されるPO0+スライスミラーアレイは位置精度10um、角度精度0.01degを要求する難易度の高いものであったが、超精密切削加工による一体加工を活用し要求精度を満たすものが完成した。その複雑な形状の評価には通常の非接触三次元測定機とX線CT測定を活用した。その他の光学素子(PO2球面ミラーの超精密切削加工、PO1組み合わせレンズ)や組み上げの土台となるベースプレートの製作も2021年9月までに完了した。その後、光学素子の組み上げと実験室での光学的な評価を行った。組み上げの際には超精密加工で製作した基準面やシムを用いることで、PO1組み合わせレンズの取り付け位置をわずかに調整したのみで複雑な光学系を必要な精度で組み上げることができた。光学試験ではSWIMS-IFUの結像性能やSWIMS-IFUから射出される光線の方向は要求精度内であり、視野と瞳像のけられについては設計時点で想定された通りのものが確認された。2022年3月にはSWIMSがPI装置として運用されている国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡にSWIMS-IFUを持ち込み、試験観測を行った。SWIMS-IFUはSWIMSの装置内に真空冷却化に保管されロボットアームで扱われるため、まずはその工程の動作試験を行い成功を収めた。その後、3月25日に較正用データの取得、3月27日には性能評価用の標準星や星団の観測を実施し、試験観測は成功を収めた。
2: おおむね順調に進展している
2021年度は当初の計画にあった国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡でのSWIMS-IFUの試験観測が実施され、研究計画は順調に進んでいる。2020年度に新型コロナウイルス感染症の影響を受け遅れていた光学素子の超精密切削加工による開発も2020年内に詳細な計画を行ったことで順調に進み、2021年9月までにすべての素子の完成を迎えることができた。また、超精密切削加工は光学素子の組み上げにおいても大きな威力を発揮し、光学素子の位置較正の負担が大きく軽減したことで計画はより順調に進んだ。光学試験については光学素子の開発と並行して準備を進め、光学素子の完成から時間が空くことなくスムーズに開始することができた。2022年3月にハワイで行ったSWIMS-IFUのSWIMSへのインストール作業では関係者と綿密に計画を共有し、大きなトラブルなく順調に進めることができた。
2022年度は2022年3月に取得した観測データをもとにSWIMS-IFUの性能評価を進めていく。まずは標準星の観測データからSWIMS-IFUのシステム効率やSWIMS-IFU単体での透過率などの評価を行う。標準星の観測はSWIMS-IFUの視野内の9点で行っているので、視野内の位置ごとにこれらの評価を行う。また、星団の観測データはSWIMS-IFUによって分割された天体像を再構成するプロセスの確立に活用される。このプロセスによって作成された再構成画像によってSWIMS-IFUの空間方向のピクセルスケールなどを算出する。これらのSWIMS-IFUの性能評価については2022年7月に開催される国際研究会SPIEでの発表や研究代表者の博士論文としてまとめられる。
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