炭素繊維強化樹脂 (CFRP)接着接合部に生じるウィークボンドを検出可能な電磁誘導試験 (EIT)を開発するために,本年度は数値解析を用いてCFRP継手接着層の吸湿率の変化を算出した. 前年度までに,吸湿したCFRP接着継手にEITを適用した場合において,EITの出力には測定対象である接着層の誘電率の変化以外に,CFRPの厚さ,誘電率,導電率の変化が含まれていることを解析的に示した.このため,CFRP継手接着層の吸湿率を測定するためには,両者を区別する必要がある.本年度は,拡散解析を用いてCFRP接着継手全体の吸湿率変化とCFRP継手接着層の吸湿率変化の関係を算出し,間接的にCFRP継手接着層の吸湿率を算出可能な方法の構築を試みた. まず,数値解析で必要な拡散係数を取得するために,一方向CFRPの吸湿試験を実施した.試験片の寸法が異なる一方向CFRPを複数用意し,試験片寸法と飽和吸湿率から拡散係数を算出した. 次に,前述した拡散係数を用いて,CFRP接着継手の拡散解析を行った.拡散を支配するFickの拡散方程式を解き,各吸湿時間における吸湿率の分布を算出した.前年度までに実施していたCFRP単独の吸湿試験の結果と,本解析から算出した吸湿率の推移を比較した.両者が良い一致を示したため,作製したプログラムの妥当性を示した. 最後に,作製したプログラムを用いて,CFRP接着継手全体の吸湿率と,CFRP継手接着層の吸湿率の関係を算出した.本結果を用いることで,CFRP接着継手全体の吸湿率とEITの出力の関係を取得すれば,CFRP継手接着層の吸湿率を定量的に算出することが可能となる.本手法は,吸湿初期の吸湿率も測定可能であることから,EITを用いてCFRP継手接着層に吸湿により生じたウィークボンドを検出可能な方法を構築できたと言える.
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