本研究は,燃料にマグネシウムワイヤ,酸化剤に水を用い,それらの燃焼エネルギーを推進力に変換する小型宇宙機向けの推進機を提案している.当該推進機の実現に向け,令和4年度は,1)マグネシウムワイヤの反応速度と反応率の取得,2)実験結果を用いた推進機の性能推算,という2点の進捗を得た. 1) 前年度に引き続き,構築済みの実験系を用い,水蒸気流量を変化させた場合のマグネシウムワイヤ反応速度の取得を進めた.反応速度は水蒸気流量に対して弱い正の相関を示した.理由の一つとして,水蒸気流量,すなわち水蒸気流速が大きいほど,火炎面がマグネシウムワイヤに近接し入熱量が増すためであるというものが示唆された.また,燃焼後の固体生成物を塩酸と反応させた際の水素発生量から,マグネシウムワイヤの反応率を算出した.結果,実験を行った水蒸気流量の範囲では,おおむね99%以上であることが明らかになった. 2) 前項にてマグネシウムワイヤの反応速度の,混合比依存性が得られた.この関係から,いくつかの仮定の下で,当該推進機の推力あるいは比推力等を推算した.計算過程において,固体生成物の燃焼器からの排出の有無や,水蒸気のノズルにおける凝縮等を加味した.結果,先行研究にて提案されている小型化学推進機に対して,推力は同じオーダーか1桁小さく,比推力は同程度であると明らかになった.先行研究の推進機に比べ化学的に安定かつ入手性の高い物質を用いつつも,小型化学推進機として適用可能な性能の達成が見込まれるという点で,本研究にて提案する推進機の有用性を示した.
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