研究課題/領域番号 |
20J21562
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島村 勇徳 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | X線 / 集光ビーム / 高精度成膜 / 短い焦点距離 / 大きな開口数 / 軟X線 / 集光鏡 / X線ミラー |
研究実績の概要 |
【概要】本研究は世界で最も微細なX線ビームの実現を目標とし,2つの独自案を集光鏡設計に盛り込み,この鏡の作製手法から開発している.2年目の令和3年度は,1つ目の案「集光鏡の超小型化」について実証実験を行い,さらに集光鏡のX線顕微鏡応用を試みた.いずれも過去に例を見ない集光結果と顕微観察結果を得ている.また,2つ目の案「反射膜を積層する多層膜構造の新設計」についても作製技術を検討している. 【具体的内容】集光鏡を超小型化すると,X線を小さいスポットに集め,かつスポットを理想的な状態に保持しやすくなる.しかし,集光鏡の半径を従来の数十メートルから150 mmと100倍以上急峻にする必要があり,加工・計測手法が確立していなかった.令和2年度にその作製方法を確立し,兵庫県の大型放射光施設SPring-8にて集光鏡の集光性能を評価した.この実証実験では光子エネルギー1 keV以下の軟X線を理論的な下限値に集光した他,2 keVでは25 nm集光サイズを達成した.また,この集光鏡をX線顕微鏡に応用し,100 nm金ナノ粒子を観察した他,生体由来試料を100 nm空間分解能で元素分析した. 【意義】集光結果・顕微観察結果は共に過去に例を見ない.前者について,25 nm集光は鏡を用いた軟X線集光で最も小さな記録である.鏡は最も理想的なX線集光が実現できる一方で,軟X線領域ではその作製が課題となり,本記録は実現されてこなかった.後者について,従来X線による元素分析は重元素が主だった.しかし,本集光鏡によって,重元素分布に加え,軽元素と試料形状も同時に計測できる.空間分解能でも世界随一の記録である. 【重要性】集光実験は集光鏡の超小型化の利点を実証しており,微細なX線ビームの実現に不可欠なステップである.また,顕微観察は,本集光鏡が生物分野で利用可能なことを実演すると共に,今後のX線分析手法に大きな影響を与えうる結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
進捗を評価する点は2点ある. 1点目に,2年目の令和3年度で目標とした内容の達成度である.「集光鏡の超小型化」と「反射膜を積層する多層膜構造の新設計」というアイデアのうち前者の実証実験を行い,後者については技術開発することを本年度の目標としていた.実証実験は令和2年度からさらに集光サイズの記録を小さくし,過去に例を見ない結果となった.また,多層膜の技術開発についても装置設計が終了し,具体的な作製方法を検討している.多層膜の作製で欧州大型放射光施設(ESRF)は安定した成果を上げているが,この研究施設の製造部門を訪れることでその作製技術を学び,多層膜新設計の実現にむけて検討を進めている. 2点目に,開発した集光鏡のX線顕微鏡への応用である.顕微観察への応用は計画時当初予定していなかったが,実証実験時点で試料観察が鮮明に行えたため,X線元素分析に応用することを試みた.そして,軟X線を用いて,前例がない空間分解能で生体試料の構造情報と軽元素・重元素分布を取得することに成功した.通常応用のための実演実験は1年以上要するが,半年で達成されたと言える.従来,X線を用いた元素分析は集光スポットを試料上で走査することで行われるが,軟X線ではこの集光スポットにX線エネルギーや集光サイズ等の制約が存在し,高分解能の実現は困難だった.開発した集光鏡によって,これら制約が無くなり,今後のX線分析手法の発展に大きく貢献すると期待される. 以上から,令和2年度で目標とした内容の大部分で進捗があり、さらに予期しなかった進展があったと評価し,「当初の計画以上に進展している」と報告する.
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今後の研究の推進方策 |
超小型ミラーについて,軟X線顕微鏡への応用と硬X線用の多層膜開発に取り組む.前者について,これまでX線集光に用いた装置を改造することで,超小型ミラーをX線顕微鏡に応用できる.超小型ミラーは軟X線領域で過去に例を見ない集光性能を有しており,特に軽元素で構成される試料を,従来の重元素分布に加え,試料形状・軽元素まで同時に計測できる.神経細胞や薬理動態の分野を対象に,特定元素の振舞いを本手法で可視化し,新たなX線分析技術を提案する.後者の開発について,硬X線集光に不可欠な反射層の積層のため,成膜装置の改造と多層膜の試作を続ける.仏国の欧州放射光施設で得た知見をもとに多層膜の厚み・元素の組合せを網羅的に検討する.加工法OAMによる構築済の前研磨装置によって円筒基板を楕円筒形に加工し,表面に多層膜を積層することで超小型多層膜ミラーを作製する.国内外の発表と論文投稿でこれまでに得られた成果を発表する.
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備考 |
島村 勇徳, HIRAKU-Global広報誌コメント. T. Shimamura, comment to nature asia Press Release. T. Shimamura, SPRINGER NATUREプレスリリースコメント.
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