研究課題/領域番号 |
20J21568
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山田 航太 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 学習心理学 / 条件づけ |
研究実績の概要 |
過去の経験を通して、行動を変化させることは、我々が生きていく上で不可欠な能力である。心理学において、学習とは「経験による半永続的な行動の変化」と定義されている。これまでの心理学および神経科学的な研究によって、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が学習において重要な役割を果たしているという知見が積み重ねられてきた。一方で、脳内ドーパミン系の異常は、パーキンソン病やハンチントン病といった運動の障害を引き起こすことが知られている。生理学的に行動というものを眺めたときに、それは運動として表出されるものの総和として捉えることができる。学習という機能の神経基盤を明らかにするためには、経験とそれに伴う運動の関係性について詳細に明らかにする必要がある。本研究においては、実験心理学がこれまで積み重ねてきた行動に関する実験系を最新の計測技術と融合させることによりアップデートし、脳内ドーパミン系の実験的な操作によって、学習におけるドーパミンの役割を明らかにすることを目的としている。 今年度は、マウスの頭部を固定することにより、訓練に伴う運動および生理学的な変化を詳細に計測することが可能な実験系を構築した。従来の学習実験で用いられてきた、延滞条件づけを始めとする古典的条件づけやオペラント条件づけなどを当実験装置においても実施することができた。 また薬理的にドーパミンを操作することにより、経験に伴う行動の変化と運動そのものにおけるドーパミンの役割について、詳細に明らかにすることに成功した(山田ら, 2020, 日本動物心理学会にて発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、1) 新しい行動実験系の確立と、2) 学習性の行動に対してドーパミンの薬理学的操作が与える影響の検討、という2つの研究内容に取り組んだ。 1) 新しい行動実験系の確立については、プログラミングによるソフトウェアの開発と、実際に動物を用いた実験室での運用の両者が不可欠である。2020年度の前半では新型コロナウイルスの流行によって、実験施設への立ち入りや、滞在時間の制限などがあったため、実験計画に狂いが生じた。しかし、その後の状況の変化により、実験系は概ね確立されており、現在は実際に実験動物を用いた運用を開始している。 2) 上記の実験装置の開発の遅れにより、薬理実験の開始も当初の計画よりは遅れたが、一部の実験結果は既に学会での発表もしており、順調に進んでいる。 全体の進捗として、新型コロナウイルスの流行により一時的に進行に遅れが生じたが、現状では遅れを取り戻すことに成功し、概ね順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の方針は大きく2つある。1) 2020年度の実験の継続と、2) 新たな実験の遂行である。 1) 2020年度の薬理実験で得られたデータを基に、個体数や条件を追加するなどして実験を行う。実験によって得られたデータについては、詳細に解析し、国内外の学会にて発表し、論文を執筆して国際学術誌に投稿する予定である。 2) 2021年度からは薬理学的な操作に加えて、神経活動の記録とオプトジェネティクスによる神経活動の操作などに取り組むことにより、学習の生物学的な基盤の解明に迫っていく予定である。 今後の実験においても、自らが2020年度に開発した新しい行動実験系を用いていく。新規に開始するオプトジェネティクスなどの操作技術については、遺伝子改変マウスの準備や実際の手術と行動中の操作までのすべての過程においてラボ内で協力して取り組み、共著者として学会発表として成果報告をしているため、所属研究室においてすでに確立済みである。全体として、2020年度の自粛期間の影響もあり、生理指標の計測や実験制御および解析を含めた実験系の確立が順調に進んでいるため、本年度では実際に実験の実施を中心に研究を遂行していく予定である。得られた成果については、国内外の学会にて発表し、論文を執筆して国際学術誌に投稿する予定である。
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